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シャイニーストッキング

第12章 もつれるストッキング1   松下律子

 144 誤魔化しのキス

「…………………」

「…………………」

 わたし達は見つめ合い、二人の間に一瞬の沈黙が流れていく…


 そして…

「あ…う、うん…
 あ、い、いや、そ、その……」

 その沈黙を破り、彼がわたしの目を見つめ、この想いの意味を一瞬にして悟ったのだろう…

 本当に申し訳なさそうに、いや、焦燥感に覆われた様な目と表情を浮かべながら、そんな声を…

 言葉を…

 苦しそうに…

 まるで絞り出すかの様に…

 そして自身を卑下したかの様な声を呟いてきたのだ。


 あ…

 そこでわたし自身も…

 この電源を無意識に切ってしまった…

 そんな自分のしてしまった行為の重さに気付いてしまい…

「あ……ご、ごめんなさい…ただ…
 ただ…
 ただ、嫌だったの…」

 そう…

 ただ、携帯電話を彼より先に奪いたかっただけだったのだ…

 それを電源を…

 無意識とはいえ電源を切ってしまった行為は…

 やり過ぎだ…

 さすがにそう想う。


 ただ…

 ただ…

 本当に嫌だっただけなの…

 わたしはそんな想いを目に込めながら、そう呟く…


 すると彼は…

「あ、い、いや…」

 いや、本当に私が悪いんだ…

 そんな目をして呟き…

 そして…

 わたしの肩をスッと抱き寄せ、いや、抱き締めながら…

 唇を寄せてきたのだ。


「あ…」

 それは彼の…

 誤魔化しの… 

 キス…

 わたしに対して初めてしてくる…

 誤魔化しのキスであった。

 いや…

 いや、違うのかも…

 わたしに対しての謝罪のキスなのかも?…

 この二度目の過ちの…

 自分自身の誤りに対する謝罪のキスなのか?…

 わたしはこの一瞬の内にそう考えた。

 そして…

 もしも…

 もしも、この彼の唇から逃げてしまったならば…

 彼のキスを拒んでしまったら…

 この一瞬の拒否により…

 彼の想いを失ってしまうのではないのか?…

 彼を…

 大原浩一を…

 存在だけは…


 失いたくはない…


 今はただ…

 奪いたいのだ…



 あの女から…

 佐々木ゆかりから…

 

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