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シャイニーストッキング

第12章 もつれるストッキング1   松下律子

 148 眠れない夜

  ヤバい…
 心がザワザワと騒めいて眠れない…

 明日も仕事なのに…

 わたしは仕方ないから起きて、冷蔵庫から白ワインをグラスに注ぎ、飲む。

「ふぅぅ…」

 どうしても切れた電話の事がふと過ぎり…

 そして銀座のお姉さんのシャネルの残り香と…
 新しく赴任した彼の秘書さんの存在感がチラチラと脳裏に浮かんでは消え、また浮かんでしまっていた。

 銀座のお姉さんイコール秘書さんという構図は、どう考えてもあり得ないし、ある筈が無いし…
 全く現実的ではないのは分かってはいる。

 だけど…

 だけど、なぜか、脳裏から消えないのだ。

「ばかな、あり得ないわ」
 
 分かってはいるのだ…

 それに夜のお姉さん方にはシャネルは大人気だし…
 また、働くOL達にもシャネルの爽やかなNo19が人気なのも分かってはいる。

 それに同じシャネルでもNo18とNo19は香りが違うのだが…
 だが、どうしでも、あの帰省から帰ってきた夜に微かに彼から漂ってきたあのNo19のシャネルの香りが心に引掛ってしまうのだ。

 証拠も根拠も全く無い、いや、怪しい雰囲気さえも全く無いのだが…
 どうしでも脳裏が騒ついてしまうのである。
 
 そしてなんの脈略も無いのだが…
 さっきの切れてしまった電話の事も気になって仕方が無い。

 それに考えても考えても、今、今夜は答えが出ないのも分かっているのだが…

「ふぅぅ………」

 わたしはいつからこんな感じに弱くなってしまったのだろう…
 あの離婚の時でさえ、こうまではウジウジとは考えなかった。

 元夫の浮気と、嫌がらせが分かった時点でスパっと切り捨て、切り替えられた筈だったのに…
 あの黒歴史時代からイケイケな強気の女だったのに。

 ああ、やっぱり彼の声が聞きたい…

 話しをしたい…

 あぁヤバい…

 眠れないわ…

「ふぅぅ…」

 仕方ない、一人慰みをするしかないか…

 わたしはもう一度ベッドに横になり…

 目を閉じて…

 指先をゆっくりと…

 下へと運んでいく。

 はぁぁ、ぁぁ…

 浩一、こういちさん…

 目の裏に、あの人懐こい彼の笑顔と…

 鼻腔の奥深くに、彼の独特な甘い体臭の香りが…

 蘇ってくる。




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