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シャイニーストッキング

第12章 もつれるストッキング1   松下律子

 163 8月19日午前8時25分

「あれ?」
 私は出勤の為に三軒茶屋の自宅マンションからタクシーに乗り、携帯電話を手にすると…
 電源を切ったままであった事に気がついた。
 
 そして電源を入れると…

「あ…」
 午前7時半過ぎから3件、佐々木ゆかりから着信履歴があった。

 昨夜、あんな感じで電源を切ってしまったから…
 何も考えずに、慌てて折り返しの電話を掛ける。

「あ、はい、おはようございます…」

「あ、う、お、おはよう」
 なんとゆかりはワンコールで出た。

「あ、な、なんか電源が…」
 ゆかりはそうとだけ言ってきた。

「あ、あ、う、す、すまん、昨夜は、山崎専務と少し…」
 そして私はとりあえず、咄嗟の言い訳を…
 ウソを言い掛ける。

 すると…
「あぁ、やっぱり、悪巧みの最中だったんですかぁ…
 なんかぁ、タイミング悪かったのかなぁって…」
 ゆかりが先回りしてそう言ってきた、いや、言ってくれてきたのだ。

「う、うん、ま、悪巧みではないが…」
 
 ゆかりのそんな先回りの言葉に正直助かった…
 ワンコールでいきなり出たものだから、まだ、心の整理が出来ていなかったから。

「わたし、思わず秘書さんに電話してしまいましたよぉ」

「え、あ、そうなのか?」
 今度はその言葉にドキっとしてしまう。

「あ、はい…」

「急用か?」

「え、あ、まぁ、例の新規業務案件の進捗状況の確認と、カタチだけの面接をしていただきたくて…」

「確か、午前中は空いてる筈だから…
確認して折り返すよ…」
 私はそう告げて、慌てて電話を切った。

 なぜならば、今、ゆかりと話しをしている最中に…
 秘書である松下律子からのキャッチの着信が入ったからである。

 なぜか…

 なんとなくだが…

 ゆかりとの電話を察知されたくなかったから…

 いや、分かる筈がないのだが…

 なんとなく…




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