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シャイニーストッキング

第12章 もつれるストッキング1   松下律子

 164 午前8時35分…

 私はゆかりとの電話を切るなり、急ぎ自分の常務室の直通電話に発信をする…

「大原常務、おはようございます」
 
「あ、すまない、あのまま携帯電話を切ったままだったらしくて…
 今、気付いたんだ…
 着信あったから、急用か?」

 そして、慌てて言い訳をする…

「あ、いえ、あ、あのぉ、朝から何度も…
 佐々木ゆかり準備室室長様からお電話があって…」
 
 その言葉がなぜか嫌味に聞こえてしまう…

 しかも、フルネームだ…

「あ、う、うん、そ、そうか…
 いや、今は山崎専務と少し話しをして…」
 
 ザワザワと騒めいていた…

 ヤバい…
 そう、私はウソがヘタなのだ、絶対に、律子に読まれて、いや、ウソがバレてしまうに違いない。

 ザワザワはドキドキに変わってきた…


「なんか、大至急、連絡が欲しいとのことですけど…」
 だが、なぜか律子はこのウソを、朗らかな私のウソをスルーし、ゆかりの言伝を伝えてきた。

「あ、う、うむ、そ、そうか…」
 それがよけいに私の動揺を誘ってくる。

 だけど律子は仕事然として…
「あ、今日は午前中のご予定は無いですけれど…」
 無感情的な、事務的に、そう伝えてきた。

 だが私には、その事務的さが…
 ドキンと心に刺さってくる。

 そしてその事務的な律子の言葉の裏に、どうせ、もうゆかりとは話しをしているくせに…
 と、そんな想いが伝わってきたのである。

「あ、うん、そうか…」

 だけどあくまでシラを切るしかない…

「はい、だから午前中ならばコールセンター部にお立ち寄りしても大丈夫ですから…」
 すると、律子がそう告げてきた。

「え、あ、あぁ…」

 ヤバい、律子に先回りされてしまった…

 そして、これは…

 わたしは全部知っていますから…

 お見通しですから…

 と、いう嫌味が込められている。

 そして、昨夜のゆかりの電話に対する仕返しだ…
 そう感じてしまう。

「あ、うん、とりあえずもうすぐ新宿だから、コールセンター部に寄って行く事にするよ」

 だから、私は、そう言うしかなかった…

 あくまで仕事だから…
 そう、アピールするしかなかったのだ。

「はい、わかりました、失礼します」
 
 そして律子のそんな、敢えて業務的に敬な語を使った事務的な言葉が耳に残った…



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