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シャイニーストッキング

第13章 もつれるストッキング2     佐々木ゆかり

 1 周りの目

「じゃあ私は向こうに行くから…
 午後からは予定が詰まってるんだ…」
 
「あ、はい、わざわざありがとうございました」

 大原常務は…
 伊藤敦子さんの簡単な面接の後に、コールセンター部の『新規業務案件』の進捗状況の確認をし、そして次に、その新規業務である新たな『アウトバウンド』と云える業務の重要なスタッフとなり得るであろう、コールセンターオペレーターであり、派遣社員でもある
『松山美咲』❲営業社員の鈴木創(はじめ)の彼女❳の、正社員登用制度適用の為の面接もしたのだ。

「あ、うん、本当にどっちの部署にも優秀な人材が集まっているな」
 と、笑みを浮かべながら…

「本当ならランチでも誘いたいところなんだが…」
 今度は済まなそうに言ってきた。

「あ、いえ、わたしもこの後すぐに赤坂と東京タワーのテレビ局に行かなくちゃならないですから…」
 そう応える。

 だが、本当は…
 凄く残念であったのだ。

 本音は、ゆっくりとランチがしたい…

 でもこの社内では、誰が見ているか分からないから、そんな素振りさえ見せられないのであった。

 この彼、大原常務とわたしの関係を知っているのは…
 蒼井美冴さんと、彼と同期であるコールセンター主任の笠原響子さんだげであるから。

 他の社員には絶対に秘密、いや、バレる訳にはいかない…
 万が一バレてしまったら、その瞬間に、わたしの地位と威厳がアッという間に崩壊するのは必至なんだ。

 やはり…
 大原常務、彼の七光りの出世と、瞬く間に社内に広かる筈だから。

 だからわたしは彼と対峙する時、社内では心を鬼にして…
 常に周りの目を意識していたのである。

「ま、お互いに忙しいなぁ」
 
「はい、嬉しい悲鳴ですね」

 だから…

 二人にしか分からない、アイコンタクトを交わして…

「ご苦労さまでした、わざわざありがとうございました」
 と、頭を下げた。

 これでいい…

 これでいいんだ…

 甘えるなら、夜…

 二人の夜の時に甘えればいいんだ…




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