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シャイニーストッキング

第13章 もつれるストッキング2     佐々木ゆかり

 7 稲葉ディレクター(1)

「あ、いたいた、お嬢さん…」
 ドキンとしてしまった。

 わたしをお嬢さんと呼ぶ輩は…

「あ、い、稲葉さん…」
 そう、この稲葉ディレクターしかいない…
 振り向くとヤツがいた。

「もうお仕事は終わったんでしょう」
 と、笑みを浮かべながら聞いてくる。

「え、あ、ま、まあ…
 今日は契約だけだから…」

「あれから少しお嬢さんの事を調べたらぁ…
 スゴイ出世してるんだねぇ…」

「あ、い、いえ、そんな…」

 わたしがそんな露骨にイヤな感じの声音で返事を返していると…

「あ、まだ、他に、次の仕事がありますから…」
 と、脇から鈴木くんが言ってきてくれたのだ。

「あ、そうなんだぁ、さすが出世頭は忙しそうで…」

 だが、海千山千の稲葉ディレクターには通用しない…

「なんか新しいプロジェクトも凄いんだってね、準備室室長も兼任なんだって?
 凄いよね…」

「そうっすよ、ゆかり部長は凄いんですよ…
 だから次が忙しいから…」
 と、さすがに空気を読んだ杉山くんも加勢してきた。

「あ、いや、マジ、ウチのコメンテイターお願いできないかなぁって?」
 だが、稲葉ディレクターは平気であった。

「あ、いや、そんなのは興味ないから…」

「ふぅん、そうなんだぁ」
 すると彼はそう呟きながら、何か意味ありげな目を向けてきたのだ。

 あっ…

 わたしはそんな彼の目にイヤな予感がした。

「あ、鈴木くんと杉山くんは下のラウンジで待ってて…」

「え、でも…」

「うん、直ぐに戻るからさ」

「は、はい、じゃ、ラウンジにいます」

 なんとなく…
 鈴木くんと杉山くんには聞かれたくはない話しが出てきそうな感じがしたから…
 すると鈴木くんがすかさず察知してくれた。

「少し稲葉さんと話したら行くからね」

「は、はい…」
 
 そして二人を遠ざけ…

「もおっ、何ですか」

「おっ、昔のお嬢さんに戻ったみたい」
 彼は笑みを浮かべでそう言ってきた。

 昔のお嬢さん…

 昔のわたし…

 イケイケで…

 真っ黒な…

『黒歴史』のわたし…





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