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シャイニーストッキング

第13章 もつれるストッキング2     佐々木ゆかり

 72 敦子の想い(9)

 わたしの心は落胆し、ポッカリと大きな穴が開いてしまったみたいになっていた。

 そしてその心の隙間に…
 ビアンというわたしにとっての無意識な性的嗜好の誘惑が入ってきたのである。

 それは夏休み最後の夜…
『もう今夜でここに通うのも最後にしよう…』
 と、憧れのゆかりお姫さまが居なくなった今、最後の望みも消え、また、子供のわたしには六本木は大人の世界のイメージであり、いや、実際に完全にそうであり、敷居が高過ぎて…
 羨望のゆかりお姫さまとはいえ、探しに行く気力も、協力者も居らずに絶望していた夜ともいえ、そしてそんな想いに打ちひしがれて、今夜で最後にしよう…

 また、もしかしたらお姫さまが居るかもしれない…
 そんな藁にもすがる想いで来た夜であった。

 そんな微かな想いを抱き、ダンスフロアから何気なくお立ち台を見上げた時であった…

『あ、えっ、い、居たっ』

 ドキドキドキドキ…
 心が一気に高鳴る。

『あっ、ゆ、ゆかりお姫さまっ』
 そのお立ち台のセンターで踊っている姿を見て、歓喜した。

『あ、え、あぁ…』
 だが、その高鳴りは直ぐに幻と消えていく。
 
 見間違いであったのだ…

『そ、そんな…』
 わたしはその見間違いの現実の衝撃に、フロアから呆然とした想いでお立ち台を見上げてしまう。

 すると…

『あぁ、アッコちゃんっ』

『さぁ、コッチにおいでぇ…』

 実はわたしは、ゆかりお姫さまのお陰でここのメンバーに瞬く間に認められ、お立ち台のセンターからの三番順位の地位を確保し…
 そして、廻りからは『アッコちゃん』と呼ばれるくらいに持ち上げられていたのであった。

 だからフロアで呆然と見上げていたわたしの存在をお立ち台メンバーと、それらの取り巻きの男達からそう声を掛けられ…
 腕を引かれ、お立ち台へと導き、誘われたのだ。

『あ、は、はい…』

 でも、まだ見間違いのショックに呆然としており、そしてその反面、あの見間違いした人は?
 と、心を騒つかせ…

 また、激しいビートの80年代のユーロビートのリズム…

 激しく点滅する照明の明滅に…
 心を揺らがせていたのであった。

 そして…

 あの人、あの女は…

 ゆかりお姫さまと見間違う程の凛とした存在感の人は誰なの?

 激しく心が揺れていた。
 




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