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シャイニーストッキング

第13章 もつれるストッキング2     佐々木ゆかり

 99 敦子の想い(36)

 そんな心の戸惑いの揺らぎが目に浮かんだのだろう、そんなわたしの目を見てママが…

『どうやら涙は枯れたみたいね…』
 そうポツリと呟いたのだ。

『え、か、枯れた?』
 
 いや、枯れるなんてことはあり得ない…
 そう想うのだが、本当に涙が込み上げてはこない。

『そうよ、枯れたのよ、ううん、開き直り、乗り越えた…とも、云うかもしれないけれど…
 それも、また、まーちゃんの望み、想いでもあると思うのね』

『え…お、想いって…』

『だってぇ、まーちゃんならば同性愛者の悲恋、悲哀の事は痛いほど分かっていた筈だし…
 ましてやこんな歳の差のあるあっちゃんを愛していたから、とっくに心の覚悟は出来ていた筈なのよ』

『…………』

 そうかもしれない…
 だからこそ、お互いの背景、家族の詮索は必要以上にしなかったのだと…
 そしてガンの罹患は別として、突然の別れという流れは常に想定していたのだと思われるのだ。

『だからね、もうあっちゃんは開き直ってさぁ、乗り越えなくちゃさぁ…
 ダメなのよ…』

『あ、は、はい…』

『だから抱いて上げたのよ…
 色々な意味で乗り越え、開き直れる様にね』

『え…そ、そうなんですか』

『うん、そう…
 だってわたしが愛したまーちゃんが…
 大切に愛したあっちゃんだもの…』

『あ…』

『とても、放ってはおけないわ』

『あ…ぁぁ……』

『あらぁ、まだ、涙は枯れて無いみたいねぇ』

 そう、わたしはそんなママの優しい言葉にまた、再び…
 涙が込み上げ、溢れてしまったのだ。

 でも、もうこの涙は、さっき迄の哀しみや絶望感、刹那感の想いの涙ではなかった…

 まゆみサマとの哀しい、悲しい別れの現実は消えはしない、いや、決して消えないであろうが…
 この暗い絶望感の中に、ひとつの灯りが見えた様な安心感からの安堵的な涙であったのだ。

 ううん違うかも…

 この大きな心の持ち主であるママへの安心感、安堵感からの、心の緩みの涙なのかもしれない。

 そしてわたしはこの夜から…

 変わる事が出来た、いや、また再び、前に進み、歩む事が出来る様になったのである。


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