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シャイニーストッキング

第14章 もつれるストッキング3          常務取締役大原浩一

 23 今はまだ…

「あ、はい、そうですね、ま、大原さんのスケジュールはわたしが管理していますから、終わったらゆっくりできるように調整しますわ」
 
 そう…
 今夜のこの山崎専務への話しは、あくまでも報告がメインなのだ。

 もちろんこの『再生計画』は、具体的な命令はされてはいないが、私が常務に就任したという事実が…
 言わずもがなの私への使命の一つであるのは明確ではあるから。

 そしてそれを成功に導くことが…
 この先の私の進む道へのステップの一つ、第一歩であるのだ。

 ただそれを山崎専務に、いや、つまりは派閥の長である松本副社長に報告するという筋、スジを通さなくてはならないだけなのである… 
 だから、逆に報告さえしておけば問題なく、今夜もそれで山崎専務への要件は終了なのである。

 だから、今夜のこのママの同伴でもあるのだ…

 つまりは私という存在は…

 まだまだ小さい傀儡常務という存在に過ぎずに、山崎専務の包囲網という囲いの中にいる小さな存在なんだ…
 という、ある意味山崎専務からの尊厳のアピールの意味があるのだ。

 それは最初の…
『林田社長からもう聞いているよ…』
 という言葉が全てを物語っている。

 そして必ずスジを通し、順番を間違えるなよ…
 という警告でもあるのだ。

「では、明日から動きますから…
 準備もありますので今夜は失礼します」
 私はそう告げて、律子と共にラウンジを後にする。


「ふぅぅ…」
 私はラウンジを出てエレベーターに乗るなり、そう吐息を、いや、ため息を漏らす。

 すると、律子がスッと傍に寄ってきて肩をもたれ掛かけ…
 
「………」
 無言で私を見つめ、手を握ってきたのだ。

「あ、うん…」
 そんな律子に私はそう頷く。

「………」
 そして握り返し、黙って見つめ返す。

 うん、大丈夫…
 いや、まだ、今はこれでいい…
 私は律子を見つめ、心の中でそう呟いた。

「これからよ…」
 すると、さすが律子である…
 まるで私の心の声が聞こえたかの様に私を見つめ、そう小さく囁いたのだ。

 これからよ…

 そうこれから…

 今はまだ、黙って、大人しく…

 そして従順であればいいのだ…

 今はまだ…

 私は黙って頷いた。

 

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