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シャイニーストッキング

第14章 もつれるストッキング3          常務取締役大原浩一

25 今夜も、そう今夜も…

「よし、そうとなったら準備しなくちゃな」
「はい、一応ホテルも押さえてあります」
「え、あ、そうか」
「はい、一応です」

「うん…そうか、じゃ、一通りの着替えも必要だなぁ」
 私がそう言うと…

「あ、は、はい…」
 律子は少しトーンを落として応えてきた。

 それはつまりは、山崎専務との予定が終わり、明日は朝から新潟支社への出張であるから、その準備をするという事は…
 今夜はこれでお互いに別れるという意味となる。

 今、その瞬間から律子は、優秀で完璧な秘書から…
 私の事を心から慕い、愛してくれている一人の可愛い女になった、いや、女に戻ったのだ。

 そんな彼女のトーンダウンであろう…

「よし…」
 私はそう呟き、律子を見つめる。

 そして…
「じゃあ、私のマンションへ荷物取りに行くか?」
 と、思わず言ってしまった。

「えっ?」
 そう言った瞬間、律子の表情がパァっと明るくそして満面の笑みに変わり…
「は、はい」
 と、いつもの、いや、いつもより、私のなぜか心惹かれてしまう声音のトーンを更に高く、高まらせ、返事をしてきたのだ。

 つまりその私の言葉は…
『今夜も律子の部屋に泊まる』
 という、暗黙の意味でもあるから。

 今夜も…

 そう今夜も…

 私はそんな可愛い律子の変わり身の様子が愛おしく感じてしまい、いや、愛おしくて堪らなく…
 今夜、ここで別れたくなくなってしまったのである。

 いや、律子とこうして一緒にいると…
 自分自身の心の昂ぶりを制御できなくなりつつある、いいや、できなくなっている自分に気付いていた。


「三軒茶屋方面へ…」
 そしてタクシーに乗り、私のマンションへと向かう。

「………」
 すると律子は一緒に後部座席に座った途端に、甘える様に私の肩にもたれかかり、そして、黙って手を握ってきた。

 それは、その律子の仕草、いや、変わり身は、仕事モード、秘書モードの終わりを意味する…
 そして一人の可愛い女へと戻るのだ。

 その変わり身がまた私の心を揺るがしてくる…

「………」
 タクシー内での律子は黙っていた。

 だがその沈黙は、決して沈黙ではなく、寄りかかっている肩の触れ合いから…
 そして握り合っている手から…
 心を通して律子の想いが伝わってくる。




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