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シャイニーストッキング

第14章 もつれるストッキング3          常務取締役大原浩一

 26 特別感…

「………」
 握り合っている手から律子の想いがヒシヒシと伝わってくる。

 それは…
 私のマンションには良く佐々木ゆかりは訪れているのか?…と。

「いやぁ殆ど寝に帰っているだけだからなぁ…」
 だから敢えてそう応えた。

「え?」
 するとそんな応えの意味が意外だったのだろうか…
 少し驚き気味な反応だ。

「あぁそうだよ、殆どシャワーして寝るだけさ」

「そ、そうなんですか?」 

 その私の呟きは…
 佐々木ゆかりでさえ殆ど来宅していない、という意味を遠回しで投げかけたつもりであった。

「うんそうさ…
 恥ずかしながら離婚してからは正にそうだよ」

「え、で、でも……あ、いや、いえ…」
 おそらくはゆかりの来訪について訊こうと一瞬思ったのだろうが、呑み込んだみたいであり…

「あ、いや、じゃ、部屋のお掃除なんかは?」
 慌てて言葉を変えて訊いてくる。

「うんそれは掃除、洗濯は週二回、家政婦を頼んであるから…」
「え、か、家政婦さんを?」
「ああそうさ、自分じゃ面倒だからなぁ」
 これは事実であり、いや、ゆかりの来訪だって、逢瀬の殆どはいつものホテルにしていたから…
 ただ、この前のお盆休みの最終日に、我慢し切れなくなったであろうゆかりの突然の来訪と逢瀬の夜が例外的にはあったのだが…
 それを含めて確か、本当に、彼女の来訪は三回しかない筈であった。

 ついでに私自身もゆかりのマンションには一度しか訪れた事がなかった…

「そ、そうなんですかぁ、ふぅん…」
 すると律子の声音のトーンが少し高く変わったのだ。

 ゆかりが来訪した事が無いと彼女なりに安心したのだろう…
 いや、律子は今は完全に、私を愛してくれている28歳という本来の可愛く、美しい元々の普通並みの女性に戻っていた。

「あぁ、殆ど誰も来た事ないから…」 
 と、自分でも驚くほどに調子の良い言葉を言ったのだ、いや、言えたのである。

「そうなんですねぇ…」
 そして律子はそんな私の言葉を受けて、朗らかに明るいテンションに、いや、可愛い普通並みの女性になった。

 大好きな、愛している男の部屋を訪れる…
 それも殆ど誰も来訪した事のない部屋に…
 それは女性だけではなく、逆でも嬉しい、いや、特別感を感じる筈なのだ。

 そして私も…

 なかなか上手になったのかも…



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