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シャイニーストッキング

第14章 もつれるストッキング3          常務取締役大原浩一

32 『カフェバー波道』

 そう、あの店に行こう、律子を連れて行きたい…
 私はふと、そう思い付いたのだ。

 そして律子の手を取り、マンションから大通りへ向かう反対側の方向へと歩き始める。

 5分程歩けばあの店へ行ける…

 そして… 
 10階建ての雑居ビルの1階に、軽くアイビーの蔦が絡まり、板張りの落ち着きのある入り口の店が目に入る。
 そこには『カフェバー 波道』
 と、小さな看板がライトに照らされていた。
 (P283〜参照)
 その店は、約一ヶ月前に、私と『黒い女』時代の蒼井美冴を偶然から、あ、いや、今となっては必然だったのかもしれない…
 私達を結び付けてくれたきっかけの店である。


「あら、素敵なお店…」
 すると律子はその入り口の佇まいを見るなりそう呟く。

「だろう、さぁ、入ろう」
「はい」

 カラン、カラン…
 入り口を開けるとドアベルが鳴る。

「いらっしゃいませ…あ、部長さん…」
 その店内は、やや照明を落とした落ち着いた雰囲気の中、静かにレゲエの調べが聞こえ、そして微かな甘いムスクの香りが漂っていた…
 そんな中からオーナーであろう彼が顔を出し、そう声を掛けてきた。

「やぁ、こんばんは」
「いらっしゃいませ部長さん、カウンターがいいスか?」
 そう訊いてくる。

「え、部長さんて?」
 すると律子はその部長というワードに反応をして、少し不思議そうに呟く。

「あ、あれ?、マズかったっスか?」
 オーナーの彼がそんな律子の言葉を聞き、慌ててそう訊いてくる。

 多分彼は、この律子の若さと雰囲気を見て…
 私達を不倫的な怪しい関係だと思ったみたいであった。

「あ、そうか、部長時代から通ってらっしゃるんだ?」
 すると律子がそう訊いてくる。

「あ、いや、通ってるって程じゃないけど…」
 そう言う私の横で…
「実は今は、常務さんなんですよ」
 と、笑みを浮かべながらオーナーの彼に話したのだ。

「えっ、あっ、じ、常務さんって?」
 するとオーナーの彼は驚いた声を出してきた。

「あ、うん、ま、たまたまね」
 少し気恥ずかしい。

「うわぁ、常務さんかぁ、スゲぇ」

「うふ、面白いお方…」
 そんな彼の驚きの様子を見てそう笑いながら呟いた。

「い、いや、あ、さぁどうぞ常務さん、こちらに」
 そして私達はカウンターへ座る。



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