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シャイニーストッキング

第14章 もつれるストッキング3          常務取締役大原浩一

57 タヌキ…

 もしかしたら私が律子に選ばれたのでは無く、私自身も律子の手駒の一人に過ぎないのかもしれないな…
 私はそんな事をふと思い浮かべながら律子の顔を見て頷いた。

「簡単に落ちると思いますよ」
 そう云ってくる律子は、やはり昂ぶりの輝きを光らせている様に見えてくる。

「うん、そうかもなぁ」

「それよりもですよ…」

「え?」

「これから先、気を付けなくちゃならないのは…
 林社長だと思うんですよ」

「あ、うん、キミもやはりそう思うか、いや、そう思ったか?」

「はい」

 私はそんな律子の的確な読み、判断、いや、全体を正確に見て観察しているその彼女の能力にも感心してしまう…
 なぜなら、その事は昨夜実感したからであった。

「そうだよな、ヤツ、林社長があれほどのタヌキだったとは…」

「はい、そうですよね」

 タヌキだったとは…
 つまり、昨夜、山崎専務に報告はしたのだが、時間の都合によって順番画逆になってしまったのだが…
 
「ま、そうだとは思ってはいたけれども、あれほどとはなぁ」

「はい、わたしもそう思いました」

 あれほどとは…
 つまり、林社長に今日の出張の相談を装った承諾を取り付けたのではあるが、本来ならばまずは山崎専務に伺いをしてからの林社長への報告が筋、スシなのである。

 だが、林社長と話した僅か2時間後の山崎専務への報告時には…
 既に林社長からの連絡済みであったのだ。

 つまりは山崎専務と林社長は通じている訳であり、いや、もしかしたら私のお目付け役、つまりは、監視、スパイ役ともいえるのかもしれない…
 いいや、間違いはないであろう。

 そして現時点での山崎専務にとっての私という立場は…
 飼い主にはキバを剥けてはいない、いや『常務』という甘くて美味しいエサに食付き、尻尾を振っている可愛いいイヌでしかない。

 だから、昨夜の山崎専務が簡単に…
『林くんから聞いているよ…』
 と、ネタバラしをしてきたのだと思われるのだ。

 それはこの私には飼い主に咬みつくというまさかの『下剋上』の思いなど…
 あり得ないと思っている証拠でもある。

 ましてや既に、ずうっと可愛いがってきた、そして娘の様にも思っているであろう律子という監視役を秘書として貼り付けてある訳だし…
 

 


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