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シャイニーストッキング

第14章 もつれるストッキング3          常務取締役大原浩一

 58 武石健太の存在感

 既に山崎専務が大学生時代からずうっと可愛いがってきた、そして娘の様にも思っているであろう律子という存在を新たに私を監視する意味で、秘書として貼り付けてある訳だし、それに生保社内にはこのタヌキの林社長という監視役も置いてあるから…
 そしてまたなにより、この私にはそんな『下剋上』等という野心が芽生える筈が…無い。
 そう思っている筈だから。

 しかし、もしかしたらこの先に…
 そんな山崎専務の計算違いが起きるかもしれない。

 それは、この熱い血脈のDNAの疼きに昂ぶり始めているかもしれないこの律子による…
『律子の乱』が小さいながら秘かに芽吹き始めているかもしれないからだ。

「どちらにせよあのタヌキおやじの林社長がこれからの一番の要注意という事か…」
 私はそんな律子の熱く昂ぶるまなざしを見つめながらそう言った。

「そうかもですね…
 でも分かりやすくてかえって良いかもですね、それに逆に利用できるかもしれないし」

「うん、そうだなぁ」
 私はそんな律子の言葉にあの山崎専務の甥っ子である武石健太の存在を、いや、存在感の事を思い出した。

『新規プロジェクト』の人事辞令の際、僅か3日前に急遽正社員雇用をした蒼井美冴がコールセンター部の主任に指名され…
 その時点では、その蒼井美冴の存在を山崎専務が知る訳も無い筈なのに?と疑問が、いや、この『新規プロジェクト』内にスパイ的な存在がいるのかと、私と室長の佐々木ゆかりの2人で疑心暗鬼をした。

 そして結果的には武石健太が山崎専務の甥っ子であるという存在が判明し、そのスパイの疑心暗鬼の疑惑は解決したのだが、その時に山崎専務が…
『武石健太の存在を双方で上手く利用しよう』と、云ってきたのだ。

 つまりは武石健太の存在感を中立としてお互いの情報交換に利用しようと…

 そして今、律子が云った…
『それに逆に利用できるかもしれないし』と、いうその言葉が正にその通りの意味でもある。
 それを私は今、思い出したのだ。

 やはり律子は…
 既に私なんかより遥かに高い位置からこの風景を見渡しているのかもしれない。

 そして私は山崎専務だけではなく、この『経営の神様』と云われた祖父の熱い血脈のDNAを受け継いだ松下律子という存在の両方からの…
 傀儡の存在としての常務に過ぎないのかもしれない。


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