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シャイニーストッキング

第14章 もつれるストッキング3          常務取締役大原浩一

 62 全部の律子

「いや実は、私もさ…
 本音はそう思っていたんだよ」
 
「えっ、そうなんですか?」
 すると律子の表情が笑顔に変わった。

「あぁそうさ、昨夜、山崎専務やママにあんな感じで云われたから余計にそう思ってしまってさ、つい…」
 昨夜、山崎専務とママから…
『地方出張はそれなりに楽しまないと…』
 そう云われ、だから本当は咄嗟の誤魔化しの言葉なのだが、なんとなく説得力が増したみたいであった…

 そして私自身も…
『少しずつウソが上手くなってきたかも』
 と、内心思っていたのだ。

 だが、これが尖る、という事に通ずる筈だから、そしてこんなウソがこの先の私自身の為にもなる筈だから…

 そう、私はこの松下律子や佐々木ゆかり、そして蒼井美冴という3人の女性達を手放さないと決めたのだから、このくらいのウソは正に『嘘も方便』のひとつになるのだ。

「だから、そんなに気にするなよ」
 そう言ったこの言葉は、律子への言葉でもあるのだが…
 反面、私自身への諫言でもある。

「あ、はい、ありがとうございます」
 すると律子は、満面の笑みを浮かべ、そう嬉しそうに言ってきた。

 そんな律子の様子がまた可愛いく、更に幼く見えてくる…
 そしてこの感じは今までとは違う、新たな律子のもう一面の姿にも感じられてくる。

 これもまた律子の姿なんだ…

 ここ最近、いや、律子が突然に私の専属秘書となってからのこの約3日間…
 ほぼ1日中一緒にすごしていた。

 その1日中とは、つまりそれは…

 常務秘書としての凛とした律子…

 山崎専務と接している慎とした律子…

 そして夜、私にすっかり甘えている律子…

 その中で年齢以上に見える時や、若く見える時、更に幼く見える時等々、その時々に応じた、正に多種多様な変幻自在のこの律子の姿は…

 果たしてどれが本当の律子の姿なのであろうか…
 そんな事をふと思い、考えていると…

「さぁ、では、新潟支社に向かう時間ですから行きましょうか」
 すると、凛とした秘書としての律子が現れ、そう告げ、私の先を歩き始めるのだ。

 あっ…
 そんな律子の後ろ姿を見て、私はハッと気付いた。

 あれも、これも、どれも、みんなが本当の律子なんだ…
 そしてそれら全部が律子の魅力であり、そんな律子に私は更に惹かれ、魅かれているのだ…と。



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