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シャイニーストッキング

第14章 もつれるストッキング3          常務取締役大原浩一

64 プレッシャー

「大原常務お疲れ様でした、支社長の永岡と申します」
 タクシーが新潟支社前に到着すると、おそらくは支社長、副支社長、女性秘書、その他3人の計6人が入り口前で整列をし、その永岡支社長自らが平身低頭の勢いで迎えの挨拶をしてくる。

「大原です、わざわざこんな仰々しいお迎えなんて、気を使わなくて大丈夫ですのに…」
 私は敢えて、そんな感じに柔らかく挨拶を返していく。

「あ、いや、そんな失礼なことは…」
 永岡支社長はこんな私の低姿勢な返しに、かえって更にひれ伏すかの様な感じで応えてきた。

『相手にプレッシャーを与える意味でも…』
 と、いう律子の心理作戦の先制パンチは見事に効いた様である。

 そして永岡支社長の初見の見た目は、おそらくはひと回り以上の50歳代前半であろうか…
 だからこそ私は余計に丁寧に応えたのである。
 
 私は小学生時代から高校2年生までは野球部という厳しい縦社会の体育会系を経験していたから、歳上の人に対しては例え自分の立場が上であろうとも…
 横柄な態度は取れない性分ではあったのだ。

 だが、かえってこんな私の低姿勢さが、相手の永岡支社長には不気味なプレッシャーを余計に与えてしまっている様でもあった…

 なぜなら…
「さ、どうぞこちらへ…」
 応接室へと案内され、対面のソファに座った時に…
 永岡支社長の手が微かに震えているのに気付いたからである。

 突然の新常務の視察という意図ガ読めない謎の訪問…
 そして自分自身は前常務派であったからという崖っぷちの心理…
 それらの焦燥感が彼のその手の震えに繋がっているのだと思われた。

 そして秘かな律子の仕掛けたこの心理的なプレッシャーが…
 目の前のこの永岡支社長には可哀想なくらいに効いているのだ。
 
「え…と、あ、そのぉ…」

「あ、まあ、永岡さん、そんな楽にしてくださいよ、別に監査とかの目的ではないんですから」
 そして私は敢えて、柔らかく、そう話していく。

「あ、は、はい」

「取って食うつもりで来た訳じゃないんですから」

「あ、はい…」

「ま、私も、合併後に本社となった◯◯商事からの執行役員からの、いきなりの常務就任で、まだまだ自分でも落ち着いていないので…」
 と、なるべくリラックスさせようと柔らかく、穏やかに話しをしていく。



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