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シャイニーストッキング

第14章 もつれるストッキング3          常務取締役大原浩一

71 ムダには敵は作らない

 永岡新潟支社長はいとも簡単に私の元へと陥ちた…
 まるで捨てられノラ犬へと堕ち飢えた元飼い犬の如くに、そして私という新任常務という地位に、いや、私の背後に見えている本社という組織の甘い響きに、陥ちたというより自ら従順さを誓ってきたみたいにであった。

「お、大原常務さん、ぜひ、ぜひ、わ、私を拾ってください」

『拾ってください…』
 正にその言葉が、彼の不安、恐れ、迷い、絶望等の想いの全てを表している。

 それはそうであろう…
 例えしんがりであっても大船に乗ったつもりでいたのに、その先頭、いや、船長が背任容疑で突然逮捕され、かつ、会社が吸収合併されてしまったのであるから。
 
 そして自分が乗った船が泥船だったんだと…
 沈没し溺死寸前なんだてな分かってしまったのだから。

 藁をもすがる想いとは、正にこの事であろう…

 そして突然の本社新常務の視察という名目の来訪に…
 おそらくは彼の脳裏には『粛清』という文字が浮かび上り、青息吐息の状態であった筈なのだ。

 だが私に直接…
『粛清的な目的ではない…』
 と告げられ、尚且つ、二人だけで話したいと云われ、そして…

「いやぁ、あの青山くんという優秀な人材を育てて、大したもんですね」
 と、そんな私の饒舌な嘘の褒め言葉におだて上げられてしまったものだから、彼は一気に私に対して、まるで千切れてしまうのではないか…
 という勢いで尻尾を振り、歓喜してきたのである。

 だが、育て上げた等なんてとは、全くもって思ってなどはいないのだが、先に律子から…
『褒め殺しにしてしまえばイチコロなんじゃないんですかね…』
 また…
『今はムダに敵はお作りにはならない方がよろしいかと…』
 という、正にまるで帝王学を熟知しているかの様なアドバイス的な言葉を授かって受けていたのだ。

 そして正にこの…
『ムダに敵は作らない』
 という言葉の思いは、先の部長から本部長に昇進した際に自らに規律を作った想いであり、また、連動して課長から部長に昇進した佐々木ゆかりに対して語った想いの言葉でもあったから…
 素直に受け入れられたのでもある。

 さすが律子だ…
 そんな彼女の言葉を受け、その時完全に律子の見据えている先の想いが見えた。

 そして改めて同じ衝動の想い、考えを互いに心に秘めていると…
 

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