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シャイニーストッキング

第14章 もつれるストッキング3          常務取締役大原浩一

 79 秘書 松下律子(7)

 今、大原常務はここには居らずに別室である永岡支社長室にいる筈であるから…
 佐々木ゆかり準備室室長からの直接の電話の有無を確認できる術はない。

 そしてどうやらこの電話を機に、彼、青山一也は大人しくわたしの視線からの雰囲気を察したようで退出したみたいであった…
 その辺りの機転の効かせ方等には、スムーズな、いや、スマートさを感じてもいた。

 しかし、さすがにさっきのあのナンパ的な口説き言葉には少し呆れてしまっていたのだが…
 不思議と嫌悪感という感じはなく、またしつこさもさほど感じてはいない。

 たが、どちらにしても彼が去ったこの会議室は、まるで嵐が去った後の様な平和で静かな空間となった。

「ふうぅ…」
 わたしは彼の退出を再確認をし、思わずそんな吐息を漏らす。

『……あ、いいや、そう、できれば口説きたい……かな』
 そしてさっきの彼の、そんなベタな口説き言葉をふと思い返してしまう。

 まったく…
 そう、まったくであったのだ、あまりにも彼の印象、当初とは違い過ぎて、驚いてしまっていたのである。

 また逆に、あれがいつもの、いや、あの姿が、感じが、雰囲気が、本当の彼、青山一也という人物を表しているのかもしれないな…
 そうも少し感じていたのだ。

 そして、ふと、この会議室内に一人になってしまっていることに、いや、この空調の効いた静かな空間にいるという事を実感してしまい…
 少しだけ、そう、ほんの少しだけ、寂しさを感じてしまっていた。

 これも青山一也という彼の魅力に少しだけ感化されているのかもしれないなと、少し不惑な騒めきを感じてきたタイミングで…
 ブー、ブー、ブー……
 大原常務からの携帯電話の着信がきた。

「はい、わたしです」

「私だ、このまま永岡さんと出掛けてしまうから、松下くんは先にホテルに戻って休んでくれて構わないから…」
 
 どうやら、この電話での彼の話し方は、すぐ傍らに永岡支社長が居るという事を意味であり…

 その…
『先に休んでくれて構わないから…』
 という彼の言葉の声音からは…
 
『ホテルで待っていてくれ…』
 という意味があるのだと、わたしは勝手に解釈をした。

 だからわたしは素直に…
「はい、かしこまりました」
 そう返事を返す。
 
 そして…



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