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シャイニーストッキング

第16章 もつれるストッキング5  美冴

 4 揺らぎの正体

 なぜか、揺らぎ…を感じる。

 そして、わたしの心に違和感をも浮かばせてくる。
 

「なんかごめんね、待たせちゃって…」
「いえ…」
 そんなゆかりさんと伊藤さんの交わす会話に…
『はっ…』と、閃く。

 あ、そうか、そうだわ…
 午前に、タクシーに乗った時…
 チラとルームシェアについて会話した。

 その時感じたあの、お盆休み中のわたしとの『ビアン』の、甘く危険な、禁断の体験の余韻の香りがゆかりさんから伝わり、一緒にして、伊藤さんとの禁断の関係を察知し…
 そしてわたし自身、一瞬、嫉妬をし、次に二人の関係の危うさを心配したんだった。

 それは大原常務との関係への心配であり、彼に対しての裏切りなのでは…
 と、わたしなりに危惧した思いでもある。
 
 つまり、それは、大原常務もゆかりさんも、二人とも、お互いに裏切り行為をしたということ。

 あ、いや、事実であろう…
 そしてその事実により、あの常務室での対峙の時に、ゆかりさんは松下秘書との二人の関係を確信したのではあるが…
 一瞬は、確実には、絶望、嫉妬、怒り等々の感情が渦巻いた筈なのだとは思われたのだが…

 ゆかりさんにとってのこの伊藤敦子という、新たな、禁断な存在感が…
 大原常務の裏切り行為の緩衝材という役割を果たし、そしてその傷心の想いを中和させたのではないのだろうか…
 と、わたしはこの二人の姿を見て、一瞬の内にそう思い、そう解釈をした。

 多分、いや、おそらくは、このわたしの逡巡している思いは間違いないであろう…
 なぜなら、そう解釈し、理解すれば、このゆかりさんの、いや、帰りのタクシー内での、あの、どちらかといえば、サバサバとした、あの雰囲気の理由が分かるから。

 だってついこの前までは、ううん、伊藤さんとのルームシェア前までは、大原常務への愛情の想いがひしひしと伝わってきていたのに…
 それなのにさっき、動揺、落胆の色を見せた後、それにいくら、越前屋さんという存在感に少しだけ和らげたとはいえ…

 ううん、わたしだったら…
 こんな、サバサバなんてできやしない。

「じゃ、皆さん、帰りますかぁ」
 わたしを見ながらそう言ってくる愛しい健太の姿を見ながら、そう思う。
 
 そしてわたしの心にも小さな揺らぎが…
 それは嫉妬なのか、安堵なのかわからないが…
 

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