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シャイニーストッキング

第16章 もつれるストッキング5  美冴

 11 『波道』に行こう…

『黒い女』の時は…
 このぎゅうぎゅう詰めの満員電車に押し潰される事が、生きている証に感じていた。

 だけど今夜は…
 心に蠢いている『ひがみ』という醜い想いが、この満員電車の人混みの圧力に押し潰される事により浄化できるような淡い想いを抱かせてくる。

 電車が走り出す加速の傾き…
 止まる減速の圧力…
 乗客の出入りの流れ…
 満員による乗客の人いきれ…
 密着感から伝わる体温…
 そして微かに伝わってくる、向かい合わせ、背中合わせからの他人の感情。

 それは満員電車のすし詰め状態ならではの、ほぼ、苛立ちや、怒りの感情…
 そんな満員の乗客の負の感情の渦に流され、巻かれていると、自分の醜い想いなんて本当に些細で小さく感じられ…
 この大きな負の感情の渦巻きに洗われ、浄化してくれるのではないか……と、感じられる。

 そして新宿駅から、ふたつ目に大きな渋谷駅という巨大なターミナル駅の人々の流れの渦に吐き出された頃には…
 もうわたしの心は、ほぼ『無』という境地になれていた。

 そう…
 わたしは特別な存在、女、オンナではないんだ…
 この巨大なターミナル駅の人の渦に流され、歩いているその他大勢の人々と同じ…
 平凡で、普通なんだ。

 そしてあの『佐々木ゆかり』や『松下秘書』の二人の女、オンナは…
 わたしとは正反対な存在の、そして、美しく、魅惑的な特別な女、オンナなんだ。

 だからひがんで当たり前…
 劣等感を抱いて当たり前…
 わたしのこの『ひがみ』や罪悪感は、普通の女の当たり前な感情なんだ。

 かなり心が浄化された……はず。

 後この少し残っている心の騒めきの蠢きは……

 そう…

 アソコに行って…

 あの店に行って…

 最愛だった男の想いの漂うあの店に行って…

『ゆうじの』魂にきれいにしてもらおう…



 わたしは『カフェバー波道』に行く。

 



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