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シャイニーストッキング

第16章 もつれるストッキング5  美冴

 12 『カフェバー波道』

「いらっしゃいませ…あ、美冴さん…」
 アイビーの蔦が絡まる、やや色褪せた木製のドアを開けて店に入る。

 あ…ゆうじの匂いだ…

 そうゆうじの匂い…
 それは、店内に微かに漂う、甘いムスクの香り。

「あれ、ノリくんは?」
 わたしは応対してくれているバイトのヒロくんに、オーナーであるノリくんを尋ねた。

「あ、ノリさんは今夜はあのブランドのミーティングに行ってます」
「あ……そ、そう…」

 あのブランド…
 それは亡くなる直前のゆうじが、周りから求められ、認められたサーフファッションのオリジナルブランド『Ga´s Y.M.S』(ガーズワイエムエス)の事である。

 わたしはこのヒロくんの何気ない一言により……
 いきなり、ゆうじの存在感という不思議な想いを実感してしまう。

 うん、やっぱりゆうじは居る…
 わたしを呼んでくれたんだ…

 そしてゆうじの愛したレゲエの調べと、微かに漂う甘いムスクの香りに包まれ…
 より強く、ゆうじの魂の存在感を感じていた。

「さぁ、いつもの席に…」
 そしてわたしは、昔からのいつものカウンターの右端の壁際の席に座る。

 この席はいつ来ても空いている…
 いや、きっとゆうじが空けてくれているのだと思う。

 そして、昔からわたしとゆうじを知り、色々と助けてくれているノリくんが不在だということに…
 なんとなく、今夜のわたしにはちょうど良い感じがする。

 そう…

 今夜は、一人、静かに…

 ゆうじの気配に浸りたいから………

「美冴さん、いつもの…でいいですか?」

「うん、ありがとう、お願い…」

 いつもの…
 いつものカクテル…
 それはゆうじが初めに奨めてくれた、ほんのり甘く、スッキリとした味わいのカクテル。

『俺みたいな味だろう…』
 海の碧さを感じさせる透明な目で、そう云ってきた。

 そしてわたしは、その目の碧さに一目惚れしたんだ…

「いらっしゃいませ…」
 他のお客様が来店しても、この店は静かで心地よい。

 ゆっくりとゆうじの愛に浸って…
 心を洗い流してもらって…
 リセットして…
 また、明日から頑張ろう。

 だって、せっかく…
『黒い女』から戻ったんだから…
 明日からは、また、健太を愛すのだから…

 だから、今夜だけは、ゆうじに浸りたい…

 

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