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シャイニーストッキング

第16章 もつれるストッキング5  美冴

 15 まるでデジャブ…

「……さ……ん………」

「……と……さん……」

「ちょっと…お客さん…」

「………ん……ぇ…ぁ…」


「ちょっとお客さん…すいません…」

「…ん……あ、あぁ…うん…」
 そう言う、タクシー運転手の声に起こされた。

 どうやらタクシーに乗るなり、すぐに居眠りをしていたらしい…

「なんか緊急工事とやらで、大渋滞にハマっちゃってまして…」

「え、あ、そ、そうなのか?」
 と、私はゆっくりと覚醒させながら、カラダを起こし、片目でタクシーの前後の車列を確認すると…
 運転手の云う通り、前後にびっしりとクルマが渋滞していた。

「ここは?…」

「うーん、太子堂の辺りですかね」
 そして目を凝らし辺りを見回すと、確かに三軒茶屋手間の高架下の国道上のようである。

 太子堂か、三軒茶屋のマンションまではそれ程の距離ではないな…
 
「じゃあいいや、夜風にでも当たりながら歩いて帰るよ、ここで下りるわ…」
 私はそう言ってタクシーを降りることにする。

 たまに歩くのも悪くはない…
 タクシーを降りると、最近ようやく、少し涼しくなった夜風が頬をスーっと、撫でてきた。

 ああ、少し喉が渇いたな…

「コンビニでも寄るか…」
 そう思い、この辺りの地図を脳裏に浮かべコンビニへと足を向けると…

 うん、まてよ、これは…
 ふと、脳裏にある感覚が浮かび、あ、いや、違う…
 少し前にも似たような…

 あ、あの時の…
 あの夜の、まるで……デジャブだ。
 そして私はとっさに右側の小さな通りに目を
向ける。

「え…」
 その瞬間、一瞬、鼻の奥に、微かな甘い香りを感じ…
 いや違う…
 ほんの微かな甘い香りが甦ってきた。

 この鼻孔の奥に一瞬、甦り、漂ってきたその微かな甘い香りは…
 あの『蒼井美冴』の甘いムスクの香り。
 そしてその香りに導かれたかのように目を向けた通りの奥には、あの店がある。

 そう、まるで今夜のデジャブの如くな不思議な流れに導かれ、いや、誘われたかのように訪れ、美冴を『黒い女』から覚醒させ、初めて心を通わせたきっかけのあの店が…
 そしてつい二日前に、松下律子を得意げに連れて行ったあの『カフェバー波道』がある。

 まさか…な……
 
 ふと、美冴の姿が過り、心を揺らがせ、騒めかせ…

 私は…
『波道』を訪れる。



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