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シャイニーストッキング

第16章 もつれるストッキング5  美冴

 17 残穢…

「もう一杯作りますか?」

 わたしは一人、昔からいつも座っているカウンターの席で…
 ゆうじという、心から愛した男の残穢が揺らめく想い出の海にゆっくりと心を沈めるように、昔、彼から勧められたカクテルを、その右側の壁を見つめながら飲んでいた。

 そう、まるでその壁に彼の笑顔が写っているかのように、ジッと見つめながら…
 
「え、あ……」
 そして、その不意なスタッフからの問いかけに、ハッ、と現実に戻り…

「う、うん、もう一杯いただくわ」
 と、応える。

 すると、ふと、心が少し軽くなったみたいな、いや、今日一日の出来事のリアルな重さから感じた自身の心の穢れが…
 まるで、綺麗に浄化されたみたいに軽くなったかのように感じられたのだ。

 それはきっと、この店内に漂うゆうじという不思議な存在感により、心が洗われたから、いや、包み込まれたからなのだろう…
 それは、ゆうじへの『遺愛』という、未だに愛している心のせいだと思われる。

 そしてそのゆうじの優しい想い出の残穢が、今を生きているわたしに…
『まだまだ頑張って、これからも生きていけ…』
 と、沈鬱な思いを払拭し、リセットしてくれ、明日への後押しをしてくれているんだ…
 と、感じてもいた。

「どうぞ…」

「ありがとう」
 わたしは二杯目のカクテルを一口飲み、その爽やかな甘さに…
 健太との別れ際に苛まれた、ゆかりさんに対しての『ひがみ』という想いが緩み、ゆっくりと心の中の深い海の底に沈んでいくのを感じてきていた。

 そう、そうよね…
 そもそも、ゆかりさんやあの松下秘書は、わたしなんかとは人種が違うんだから…

 美人で、才女で、魅惑溢れる特別な存在の…
 女、オンナ………なんだから。

 それに、健太の憧憬の想いや、大原常務のゆかりさんに対する愛情は…
 全部、全ては、わたしという存在の現れる遥か以前からの関係なのだから。

 松下秘書という存在だって…
 常務と秘書という、世間からみたらよくある下衆な愛人関係という、ひとくくりできる下啤な関係といえるのだから。

 だから…
 ひがんでも仕方ないんだ……

 ねぇ、ゆうじ…………………

 わたしは、今度は壁ではなく…
 そこに存在しているであろう…
 わたしを見てくれているであろう…

 宙を見つめて、そう想っていた………



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