テキストサイズ

シャイニーストッキング

第16章 もつれるストッキング5  美冴

 18 心の水面

 だから…
 ひがんでも仕方ないんだ。

 そんなことより健太は、今は、わたしを見て、愛してくれている…

 大原常務にしたって、あの『黒い女』という存在から覚醒させてくれただけの、ただのオトコに過ぎない…

 松下秘書に感しては、わたしはほぼ、仕事上でしか関わらない、ましてやプライベートの接点なんて、ゼロなのだから。

 そして、伊藤敦子さん…
 そもそもが、わたしはビアンではない。

 たまたま、お盆休みに友情の延長から…
 たまたま、ゆかりさんとお互いの、心の寂しさという、ある意味傷の舐め合いの感情の昂ぶりから…
 たまたま慰め合っただけなんだから…
 それに、わたしとゆかりさんとの間には、もう揺るがない絆の友情があるんだから…
 そう、もう、二度とゆかりさんとはビアンの関係にはならないのだ。
 
 だから忘れろ…
 
 ひがみなんて心の海の底に、深く沈めてしまえ…

 ねぇ…ゆうじ…

 いいよね…

 わたしは、また明日から、前を向いて歩んでいけばいいのよね…


 キン……

 そう宙を見つめ、心の中で呟き『ひがみ』の素因をリセットをしていると……
『うん、そうだな…』
 と、わたしのこの想いを肯定してくれるかのように、半分ほど飲んだカクテルグラスの中の氷が鳴ったのだ。

 うん、わかった、そうよね…
 また明日から頑張るわ……………
 わたしはそのカクテルグラスの中の氷を見つめ、自らにそう誓う。
 
 波紋に揺らいでいた、心の水面がゆっくりと…
 穏やかに、静まっていく……


 カラン……
 すると、来客を知らせるドアベルが静かに鳴り…
 
「いらっしゃいませ、お一人ですか?」

 
「あぁ、うん、あれ、オーナーは?」

 このお客の声が…

 その声が…

 また、直ぐに…

 わたしの心の水面を、激しく揺らがせてくる…………

 そう、それは……


 

ストーリーメニュー

TOPTOPへ