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シャイニーストッキング

第16章 もつれるストッキング5  美冴

 21 タバコの煙

「…………うん、たまにね、な、何回か…さ…」

 わたしは、そんな彼の言い訳を軽く聞き流し…

「ふーん………」
 右肘を付いて前を向き、横目で彼を見る。

 ゆうじと同じ銘柄のタバコの煙が、ゆっくりと揺らぎながら漂い…
 その匂い、いや、香りが鼻孔を刺激し…

 ゆうじがそこに、目の前に、居る...
 
 彼とわたしを見ているような、不思議な気配を感じていた。

 ピキッ…

 その時…
 彼の目の前のロックグラスの中の丸氷が、ヒビが走る小さな音を鳴らした。

 うん、やっぱり居るのよね…

「ねぇ…」

 もう、この空間では上司である大原常務と、部下のわたしという関係性は消え…
 ただの『男と女』という存在。

「うん?…」

「ねぇ…一本くださる…」
 わたしは彼のタバコを所望する。

「あ、あぁ、うん」
 彼は、一瞬、目を揺らがせ、タバコを一本取り出し…
 自ら咥え…

 カチャ、シュボ…
 そんな金属音を鳴らし、ジッポーライターで火を点けて…

「ほら」
 と、わたしの目をジッと見つめながら、その火を点けたタバコを手渡してくれた。

「ありがとう…」

 わたしはタバコは吸わない…
 そしてこのタバコの所望は、この前の夜にも、彼に望んだ。

「……………」
 だから、そのタバコを受け取り、目の前の灰皿に置き…
 ジッと、ゆらゆらと立ち上るタバコの煙を見つめるわたしの仕草が分かっていたようである。

 彼は、片肘をつきながら見つめるわたしの横顔を…
 優しい目で、黙って見つめてきた。

 そのわたしの仕草…
 立ち上るタバコの煙を見つめるわたしのその意味を、彼は、知っている…
 いや、もう分かっていた。

 ねぇ、ゆうじ…

 あなたがまた彼を、ここに呼んだの、ううん、呼んでくれたの?…

 ねぇ、ゆうじ…

 わたしは、ゆらゆらと揺らぐ煙の向こうの存在感に問いかける。

 そしてその煙が、ゆっくりと纏わり…
 
 いや…

 わたしを優しく包み込んできた…

 


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