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シャイニーストッキング

第4章 絡まるストッキング3 大原本部長と佐々木ゆかり部長

 87 心の迷宮 ⑦

 だ、誰か…

 誰か、わたし達を…

 誰か、わたし達を止めて…

 わたし達は昂ぶりの迷宮に堕ちていく…






 ブー、ブー、ブー、ブー…

 その時、わたしのテーブルの端に何気なく置いてあった携帯電話が突然、着信をした。

「はっ……」

「あっ……」

 そしてその突然の着信のバイブの振動音に、わたし達二人は昂ぶりの迷宮の中から一瞬にして抜け出し、醒めたのだ。
 そう、まるで催眠術から醒めたかのように、多分、お互いに、一瞬にして、ふと我に帰ったようなのである。

 そして絡めていたお互いの脚がスッと、どちらからともなく離れていった…


 ブー、ブー、ブー、ブー…
 携帯電話は呼び出しのバイブの振動音を鳴らし続けていた。
 わたしと美冴さんの二人は、なんとなくだが、その震えている携帯電話を見つめる。

 すると美冴さんはスッと立ち上がり

 電話どうぞ…

 と、すっかり醒めたようなそんな感じの目をしてわたしを見て、トイレに歩いて行く。


 ブー、ブー、ブー、ブー…

 着信画面には『大原本部長』と表記されていた。

 ああ、彼だ…

 だが、わたしはなんとなく電話に出るのを躊躇ってしまっていたのだ。
 それは、まだ、さっきまでの美冴さんと共に迷い込んでしまっていた、心の迷宮の昂ぶりと疼きの余韻が、ザワザワと、ドキドキと、ズキズキと、心の中で激しく騒めいていたからである。

 どうしようか…

 電話に出るのを迷っていた。


 ブー、ブー、ブ…………

 すると着信が切れる。

「ふうぅ…」
 なぜか、ため息が漏れた。

 ザワザワ、ドキドキ、ズキズキ…

 心の迷宮の騒めきが収まらない。



「出なかったの…」
 その時、トイレから戻った美冴さんが、そう声を掛けてきた。

 あ…

 しかし、そう声を掛けてきた美冴さんの様子がすっかり変わっていたのである。






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