テキストサイズ

シャイニーストッキング

第4章 絡まるストッキング3 大原本部長と佐々木ゆかり部長

 89 心の迷宮 ⑨

 さっきまでの…

 さっきまでのあれは…

 あれはなんだったのだろうか…

 わたしはすっかり美冴さんのあの濡れた目に、欲情の目に、あの妖艶な妖しい淫靡な艶気に呑み込まれてしまっていたみたいだ…

 まるで…

 まるで、彼女の心の中にある迷宮に迷い込んでしまっていたみたい…


 ザワザワ…
 まだ、心がザワザワしていた。

 わたしはトイレの個室から出て洗面台の鏡を見る、そしてそこに映る自分の顔を見つめていく。

 大丈夫か、ゆかり…

 ついに…

 ついに美冴さんに…

 心の中に隠しておいた本音を吐き出してしまった…

 わたしは大丈夫か…


「ふうぅ…」

 ザワザワ…
 心が騒ついている。


 落ち着け…

 落ち着けゆかり…

「よしっ」
 鏡の中の自分を見つめ、覚悟を決めた、いや、開き直った。

 もう…

 もう、話してしまった…

 美冴さんに対する憧憬を認めてしまった…

 隠しておいた想いを伝えてしまったのだ…

 いや、伝えたのだ…

 仕方ない…

 あとは…

 あとは、美冴さんがわたしをどう受けとめて…

 どう受け入れてくれるか…

 見た限り、感じた限り、嫌悪感は感じられなかった。

 大丈夫だ…

 それよりも、この時、新たに、わたしの中にある想いが湧いてきていたのである。

 その想いを伝えたい…

 伝えてみたい…

 わたしは美冴さんの待つ、席に戻る。
 ふと時計を確認すると、まだ午後9時少し前なのであった。
 このワインバーに来てからは、まだ二時間も経ってはいなかったのだ。
 わたしはその事にも驚いていた。

 なんて…

 なんて長い夜なのだろう…

 ザワザワ、ザワザワ…


「ごめんなさい、お待たせ…」
 席に戻ると、美冴さんがすっかり落ち込んでいる様相なのである。

「あ、うん…」
 そして、今にも泣き出しそうな顔になっていた。

「えっ、み、美冴さん…」

「ゆ、ゆかりさん…」
 そして美冴さんの目から、ツーっと一筋の涙がこぼれ落ちてきたのだ。

「ご、ごめんなさい…」

 その一筋のこぼれる涙を見たら、心のザワザワがまた再びドキドキに変わる…





ストーリーメニュー

TOPTOPへ