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シャイニーストッキング

第2章 絡まるストッキング1

 35 禁断の果実

「たまにはいいだろう、その代わり…」
 次に逢った時は燃えちゃうから…
 そう笑いながら耳元で囁いたのである。

「もお…」
 そう呟きながら、笑みを浮かべて私から離れた。
 そして私はエントランスを出てタクシーを捕まえ振り向くと、なんとなくゆかりが呆然としている。

「ゆかりどうした…」
 やはり疲れているのか、そう思いながら声を掛けたのだ。

「えっ、いや、ごめんなさい…」
 ゆかりはそう言いながらタクシーに乗る。

 やはり早く帰るのもいいだろう、まだ彼女は疲れている様だ…

「じゃあな、おやすみ」
「…はい……」
 少しだけ、哀しそうな顔をする。

「あっ、そうだ、火曜日には一度コールセンター部に戻るから」
「えっ、そうなんですか」
 そう言うと、今度は嬉しそうな声をしてきた。

「うん、とりあえず明日の月曜日で一度落ち着くからさ」
 そうなのだ、明日で例の吸収合併する保険会社の一通りの部署の会議は終わる予定なのである、そして二日程かけて新規事業準備室の立ち上げの人選をする予定をしているのである。

「じゃ、おやすみ」
 私は空いているタクシーの窓越しで、ゆかりと指先を絡めながらそう言う。

「はい、おやすみなさい…浩一さん」 
 するとゆかりは惜しそうに絡めた指先をほどきながら、私の名前を呼んだのである。
 その声に、言葉に、思わずドキッとした。
 
 やはり私はゆかりが愛しい…
 この別れ際にそう自覚したのである。
 色々と悪さはしてはいるのだが、やはりゆかりが可愛いいし、愛しい。
 そう想いながら、私は走り去るタクシーのテールランプを見送っていた。

 そして脳裏には

 佐々木ゆかり
 蒼井美冴
 松下律子…

 この三人の美しい、魅力溢れる顔が、妖しく淫らな痴態が、淫靡な喘ぎ声が、ゆっくりと順番に浮かび上がり、私の心を魅了し、そしてザワザワと騒めいて胸を締め付けてくるのである。

 まるで禁断の果実に手を付けてしまったみたいな感覚だ…

 私はそんな不惑な想いを浮かべながら、目の前にそびえ立つ、美しくライトアップされている東京タワーを見上げていくのだ。

 禁断の果実に手を付けてしまった

 それも一度に三つも


 もう後には引けない…

 




 
 

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