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　98　５年前、あの後…（5）

　でも、明日は美冴さんは中番のはず、明日には会える…

　大人には、人妻には、色々な事情があるのだろう…
　とりあえず僕はそんな感じに軽く、前向きに考える事にしたのである、いや、そう考えなくちゃとても不安で眠れなかったのだ。
　その頃の僕には、既に心の中の８割以上が、いや、多分、ほぼ全てが美冴さんへの想いでいっぱいになっていたのである。

　大丈夫、明日にはちゃんと会える…

　そして
　昨日はごめん…
　と、そんなにこやかな笑みを見せてくれるはずだ。

　いや、はずだった…

　だが、次の日、僕は愕然としてしまう。
　朝、バイトに出勤すると店長がいた。
　そして僕に手招きする。

「あ、和哉くん、美冴さんが緊急の事情で急に辞めたから…」

「ええっ、辞めたって…」

　ドキ、ドキ、ドキドキドキドキ…

「だから、少しシフト調整を…」
　高鳴る心臓の音で店長の声は聞こえなくなっていた。

　えっ、辞めたっ…
　
　辞めたって…

「えっ、何でですか…」

「うーん、電話でだからよくわからないけど…一身上の都合で…と、言っていたなぁ…」

「い、一身上の都合…」

　なんだ、どういうことだ…
　
　僕は目の前が暗くなり、胸騒ぎのザワザワで力が抜けてしまっていた。
　軽いパニック状態になってしまっていたのである。

「ま、和哉くん、頼むよ」
　そう店長は軽く言って奥に行ってしまった。

　み、美冴さんが辞めた…

　それは正に、青天の霹靂であった。



「ええーっ、美冴さんが辞めちゃったんですかぁ…」
　遅番出勤の朱美さんが、店長から話しを聞いて、そう驚きの声を上げた。
　朱美さんも、もちろん知らかったようで驚いていたのだ。

　僕が知らないのだから朱美さんが知っている訳が無いとは思って居た、だが、もしかしたら万が一…
　と、思っていたのだが、やはり万が一は無かった。

　その日の僕は、ショックと動揺でミスを連発し、仕事にならなかったのである…