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シャイニーストッキング

第6章 絡まるストッキング5 和哉と健太

 3 寝不足気味の表情

「ねえ健太、あなた友達っているの…」
 佐々木ゆかり部長が、いや、俺にとってのゆかり姫が本社に向かうタクシーの中で、唐突にそう訊いてきた。

「えっ、友達ですか…」
「うん、そう、友達…」
「そういえば、最近は会ってはないけど、友達って呼べるのは二人かなぁ」
 中学、高校の同級生に一人と、同期入社に一人いる。

「そうなんだ、いるんだ…」
「そりゃあいますよ、マメには連絡してないですけどね」
「ふうん、そうなんだ…」
 ゆかり姫はそう呟いた。

「ひ、あ、ゆかり部長は何人いるんですか…」
「わたしは…一人いるわよ…」
 と、なぜか嬉しそうに云ってくる。

 へぇ、ゆかり姫に友達いるんだ…

 俺はちょっとだけ不思議な想いで彼女の顔を見る。
 
 あの唯我独尊の天下無双だったゆかり姫に友達がいたんだ…
 なんか不思議に感じていた。
 なぜか彼女には、そんな友達という言葉が似合わない感じがしたからである。

「その友達、大切にしなさいよ」
「えっ、あ、はい…」
 その言葉にもの凄い違和感を覚えた。
 まるで似合わない言葉であった。

 こんな言葉を言うなんて、やはり彼女は変わったのか…

 久しぶりにゆかり姫と再会した時からずっと感じていた、違和感はこれだったのか。 

 やはり彼女は丸くなった、カドが取れたのだ…

 だが、男の匂いは何となく感じられない、もしかしたらこの彼女曰く、友達のせいなのであろうか。
 だが、今の俺にはこの長年憧れて、追い求めていたこのゆかり姫よりも、あの魅惑的な蒼井美冴さんの方がかなりの想いの比重を占めてきていたのである。

 この佐々木ゆかり姫は、やはり姫であり、高嶺の花のままで良いのだ…
 と、まで思えてきていたのであった。

 蒼井美冴さん…
 今の俺にはその名前、存在感を想い浮かべてしまうだけで胸がときめき、昂ぶってしまうのである、

 あのどことなく翳のあるあの雰囲気…

 あの深みのある笑顔…

 そしてあの過去の『黒い女』の意味と理由を訊いてしまった今、ほっとけはしないのだ。

 そしてこのお盆休みという長期休暇を目の前に控える今、俺は一つの、大きな問題にぶち当たってしまっていた。

 そしてその問題を胸に秘め、抱えていた今朝、美冴さんの顔を見たら、まるで寝不足のような目をしていたのである…




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