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シャイニーストッキング

第7章 絡まるストッキング6 和哉と美冴2

 38 もう一人の自分

 そんな彼女が、美冴さんが、今、女神の微笑みを浮かべながら目の前に存在しているのだ。

 い、今なら、手を伸ばせば…

 と、届く…

 届くのだ…

 そう思った瞬間であった、急に、僕の心が騒つき始めたのである。

 今夜、もうこれで終わりにしていいのか?…
 突然、脳裏にそんな想いが湧いてきたのだ。

 和哉いいのか、これでお前は本当にスッキリしたのか?…
 まるで脳裏にもう一人の自分が現れ、囁いてくるかの様であった。

 このレストランであの五年前の突然の失踪の理由を聞き、夏休み明けに向けての悩んでいた将来の進路の選択をしてもらい、それで、それだけで本当にいいのか?…

 本当にスッキリしたのか?…

 本当はまだまだモヤモヤとしているんじゃないのか?、いや、しているだろう…
 別人格の自分がそう脳裏に盛んに囁いてくるのである。

 お前の五年間の想いは、本当にこれで、これだけで満足できたのか?…

『大好きだったわ…』
『今でも大好きよ…』
 こう言われて満足し、こう云われただけでお前、和哉のこの五年間は本当に氷解し、重しが外れ、落ち着けられて、新しい明日へと歩み始める事が出来るのか?…

 ただ、美冴さんに上手く口先だけでおだてられ、いいようにあしらわれているだけじゃないのか?…

 別人格の自分が、次から次へと囁き続けてくるのだ。

「あっ、ごめん、ちょっとトイレね…」
 美冴さんがそう言って席を外した。
 そして僕は、脳裏に突然現れたもう一人の自分といえる別人格の囁きと逡巡をし始める。

 満足だよ、スッキリしたし、気持ち的に落ち着いたんだ…

 そうだよ、これでいいんだ…

 僕は必死にそう自分に言い聞かせる。

『今でも大好きよ…』って云って貰えたんだ、感無量じゃないか…
 僕はトイレへと歩いてゆく美冴さんの美しい後ろ姿を見つめながら、そう想った。

 嘘つきっ…
 別人格がそう脳裏で叫んだ。

 本当は、また美冴さんとヤリたいんだろうっ…

 セックスがしたいんだろうっ…

 したくて、したくて堪らなくて、ここまで追っかけて、捜し続けていたんじゃないのかっ…

 ヤリたいんだろうっ、和哉…

 もう一人の別人格の自分が、いや、違うのだ。

 実は…

 実は、これが僕の本当の想い…

 本当の自分の想いなのだ…



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