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シャイニーストッキング

第7章 絡まるストッキング6 和哉と美冴2

 40 意気地なし…

 ヤれなかったら、この五年間が終われる筈がない…
 それが本当の想い、この五年間という時間の渇望だったことを知っているくせに…

 五年間の渇望の、憧れの、憧憬の人を目の前にして、そんなきれい事ばかり並べて…

 偽善者めっ…

 いや、違うっ、本音の一つも云えない意気地なしの、腰抜け男だ…
 胸が激しくザワザワと、ドキドキと騒めきを強めてきていた。

 和哉、お前はこのままきれい事ばかりを並べて、上辺だけを繕い、あの昔の和哉のままとして美冴さんの前で振る舞い、そしてこのまま別れ、これからこの後ずうっとこのヤリたかった想いの無念を胸に抱きながら生きていくんだな…

 また再びこれからも、この先出会う女性達にずうっと美冴さんという憧憬を求め、迷走し、渇望の苦しみを味わって生きていくんだな…

「ち、違う…」
 思わず声に出して呟いてしまう。
 そしてその自分の声にハッとして我に還る。

「ふうぅ…」
 思わず吐息を漏らす。
 
 仮に今夜ここでお別れしてももうこうして再会を果たし、お互いの電話番号まで分かっているのだ、だから、ここで終わりになるわけではない、いや、またこれからがある意味、始まりなんだ…

 それに二人にとっての共通の存在である美冴さんにとっての甥っ子である康くんがいる…

 終わりになるわけではない…
 そう逡巡をする。


 お前はバカか…
 と、突然、もう一人の自分がそう云ってきた。

 いや、こっちが本当の自分なのか…

 すると視線の端に、美冴さんがトイレから出てきた姿が映る。
 彼女は化粧直しをしたのであろう、唇が再び艶々と輝き、凛とした美しさに戻っていた。

 あんな美しい、そして大人の素敵な女性である美冴さんが、見るからに普通の大学生然としたお前の様な子供をまた、再び、相手にする訳がなかろうが…
 思わず自分の姿を見てしまう。

 白の着古したBDシャツに、普通のチノパン、そしてナイキのスニーカー…
 そう、典型的な、無難な、どこにでもいる、いかにも普通然とした大学生の自分がいる。

 どう見ても、どう考えても、あの凛とした、そしてこの夜に映える妖艶とした美しい美冴さんとは釣り合う筈がない、いや、横にさえ並ぶ資格さえ無い。

 答えは自ずから分かるのだ…

 やはり今夜の再会は、終わりの始まりなのである…



 

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