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シャイニーストッキング

第8章 絡まるストッキング7      本部長大原浩一

 8 試練…

「は、ゴルフ…ですか?」
「ああ、うん、そうだ…」
 私はいきなり今、松本副社長から誘われたのだ。

「何か予定あるのかな?」
 松本副社長は笑顔で訊いてきた。

 これは試されているのか?…
 このいきなりの誘いには二つの意味があるような気がする。

 一つはこの派閥、いや、松本副社長に対する忠誠心…
 サラリーマン世界でのこの縦社会でのトップからの誘い、命令は、例え身近な身内が亡くなったとしても絶対なのである。
 
 そしてもう一つは、おそらく私が松本副社長に個人的に気に入られたのであろうということ…

 だから、この初めての対面したこの場面での誘いであり、この派閥、いや、松本副社長に対する忠誠心を試されているのであろう…
 そう、この一瞬の間に考えた。

 そして今、現在の私の立場としての答えはもちろん一つしか無い。

「予定はありません、もちろん喜んでお供させて頂きます」
 ほぼ即答する。

「墓参りとかは大丈夫なのか?」
 今度は山崎専務が問うてきた。
 おそらくこの問いかけは私に対するこの2泊3日のゴルフ明けへの助け船だと思われる。
 なぜならば、山崎専務は完全なる私の味方であり、いわば後見人といえるからである。

「あ、はい、墓参りの帰省は13日からで大丈夫なので…」
 これも即答する。

「うむ、決まりだ、じゃあ一緒に行こう…
 あの保険会社の社長と専務も来るから、大原くんは執行役員になるんだ、ちょうどいい…」
 松本副社長はそう言った。

 私が山崎専務の傀儡として執行役員として経営に参画するという事は、つまりは私が実質上、保険会社の社長と専務を頭から押さえ込むという暗黙のパワーバランスを意味するのである。

 いや、このゴルフは非常に大変だ…

 しかし既に、保険会社の社長と専務は、山崎専務に完全な服従の意を見せており、私の執行役員としての立場も素直に認めていて、パワーバランスも分かっているのである。
 そしてそんな事は、既に松本副社長は山崎専務からの報告で分かっている筈なのである。

 だから、つまり、これは私に対するある種の試験、いや、試練なのだ…

 執行役員としての力量、そしてそれは松本副社長の絶対的な片腕である山崎専務の傀儡として、果たして私がどれだけ
働けるのか…

 まずはこのゴルフで試されるのだと思うのだ…



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