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シャイニーストッキング

第8章 絡まるストッキング7      本部長大原浩一

 13 翳り…

『じゃあ、明日のゴルフ頑張って下さい…』
「ああ、ありがとう、また明日電話するよ…」
『あ、はい、電話待ってます』
 ゆかりは嬉しそうに声のトーンを上げた。

「うむ…」
『おやすみなさい…』
「おやすみ…」
 そして電話を切った。

「ふうぅ…」
 私は携帯電話を握りながら、そう吐息を漏らし、いや、ため息なのか…
 ベッドに横になる。
 そしてベッドヘッドの時計を見ると、午後11時30分になろうとしていた。

 明日は7時起きだ、もう寝るか…

 すると脳裏にさっき話していたゆかりの声が蘇ってくる。

 以前より、ゆかりが愛おしく感じて堪らない…

 だが…

 ゆかりの次に、なんと律子の顔が浮かんできたのだ。
 そして、なぜか私の心を揺さぶってくるあの彼女の声も蘇ってきた。

 どうしても律子の存在感を拭えない、いや、ゆかりに愛情を感じ、昂ぶれば昂ぶる程に律子の存在感も高まってくるのである。

 そしてあの夜、律子がゆかりからの電話を出ようとした私の腕を掴み、制してきたあの動きと、あの目…

 あれがどうしても脳裏から消えない、いや、消せなくなっていた。

 あの律子の目…

 明らかにこの前までの彼女の目とは…

 変わった…

 そんな気がしてならないのである。
 そしてその想いが微妙に私の心を刺激して、揺さぶってきているのだ。

 昔の様にワイルドに…

 そして尖って行くと決めた…

 だが、もしかしたら…

 私は、大きな間違いを…

 間違った選択をしてしまったのかもしれない…

 もしかしたら、その選択は自分の器量では捌ききれない位の…

 とてつもなく大きなモノなのかもしれない…

 ゆかりと共に心に浮かぶ律子の存在感を感じながら、私はなんとなくだが、この先に広がる不安の様な暗い翳りを感じていたのであった。


もしかしたら…

 この仕事も…

 この出世も…

 そして女も…

 尖って生きる、という選択も…

 アンタッチャブルな領域に踏み込んでしまったのかもしれない…

 なんとなくなのだが、そんな不安の翳りが湧いてくる様な、ザワザワとした想いが心を揺るがしてきていたのだ。
 



 

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