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シャイニーストッキング

第8章 絡まるストッキング7      本部長大原浩一

 84 本能の欲望

『じゃあ、また…明日…』
「ああ…」
 そして私は電話を切った。

「ふうぅ…」
 私は座っている駅前ロータリーのベンチから、上を、空を、真夏の青空を見上げ、ため息を付いたのだ。

 時刻はまだ午後4時…

 駅前のビル陰に真夏の西日は遮られ、少しだけ気温が下がっていた。

 嘘ではない…ウソを付いた。

 なんか…

 胸のザワザワとした騒つきを自覚しながら
 いつからこんなにウソが上手くなったのか…
 自虐の想いが湧いてきていた。

 いや、ウソではない…
 本音なんだ…


 ゆかりも…
 律子も…
 美冴も…
 そしてきよっぺも…
 皆、本当に好きで愛している…のだ。

 だから…

 嘘…
 ウソではないのだ…

 ただ…
 私が…

 馬鹿…

 私があまりにもバカ過ぎなのである…


「はぁ…」
 自虐の念に陥ってしまっていた。

 やはり、モテ期ではない…

 女難だ…


 そんな自虐の想いをしながらも、喉の渇きを感じ、そしてベンチから立ち上がってドリンクの自販機を捜そうと、駅前ロータリー周りをグルリと見回す。

 あ…

 すると、比較的新しい10階建てのビルの1階脇にある自販機が目に留まる。
 そしてその自販機は、そのビルの1階にある比較的真新しい美容室の入り口の横にあった。

『そろそろ髪をお切りになったほうが…』
 すると脳裏に、さっきの電話でのそんなゆかりの言葉が浮かんでくる。

 あ、そうだ、髪を、髪でも切るか…
 気分転換にもなるし…
 それに、今夜のきよっぺとの約束は午後6時半、あと2時間半もある。

 結局のところ、いくらゆかりと話して心が昂ぶろうが、律子と話して心を震わせようが、きよっぺとの今夜の逢瀬の約束を反故にする想いは全く湧いてはこないのだ。

 オスのいやらしい、スケベな本能の欲望には勝てないのである…

 そしてここは自分の生まれ育った田舎、地元なのだ、ゆかりや律子とは絶対にブッキングはしない…

 そんな油断した想いも心の奥底にはあったのである。


 男の、オスの、スケベでいやらしい本能の欲望には勝てないのだ…




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