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シャイニーストッキング

第8章 絡まるストッキング7      本部長大原浩一

 87 絶望の『望(のぞみ)』③

 ドキドキから懐かしい想いのザワザワ感へと変わり、カットをして貰いながら会話を交わしていく。

『今は?』
「うん、東京でサラリーマンさ」
『そうなんだぁ、あ、そうだよねぇ、こうちゃん家のお肉屋さん弟さんがやってるもんねぇ』
 実家の家業である食肉卸売業兼精肉店は、この駅前商店街で営んでいる。

『じゃあお盆の帰省なの?』
「あぁ親父の10回忌なんだ」
『っていうか、たまには帰ってきていたの?』
「あ、いや、そんなには…
 今回も3年振りの帰省だし…」
『だよねぇ全然こうちゃんの噂聞いた事なかったしさぁ』
「うん、もう全部弟に譲ったからね」
『そうかぁ…
 わたしなんて、ずうっとここ』
 そうボソッと呟いた。

「そうかそうに言われると、確かにここって昔からのノン家だよな」
 話しながらふと、ノンの実家はあの頃からこの駅前で自宅兼美容室を営んでいたという事を思い出したのである。

「なんか昔と全然変わっちゃったからすっかり忘れてしまったし、判らなかったよ」

 そうなのだ今から20年前、いや、あれからの20年間、本当にこの我が故郷であるこの街はすっかりと区画整理と都市化計画により様変わりしていたのである。
 昔は田園地帯だった場所はすっかり住宅地となっていたし、縦、横と走っている国道は広々としたバイパス化され、両道路側は飲食店や商業施設店舗がズラッと並んでいた。
 そしてこの駅前にしても、古びた商店や、せいぜい5階建て位のビルが今やすっかりと10階から15階位の商業ビルがズラリと並び、昔の、20年前の面影は全くといっていい程に無くなっていたのである。

『そうよ、ここだってさ、5年位前かなぁ、バブルの勢いでさ、元旦那がさ、こんな10階建てのビルにしちゃってさぁ…』
「ん、元旦那?」
『あ、うん、元旦那…なの
 3年位前にガンで…さ』 
「あ、そうなのか」
『うん、子供も二人ね』
 と、意外にも明るく話してくる。

 20年か…

 お互い、色々あるさ…

『こうちゃんは?』
「あ、うん、バツ…」
 と、苦笑いを浮かべて言った。

『あー、相変わらず遊んでんでしょう』
「いや、そんな、遊んでなんか…」
『ううん、絶対にぃ遊んでるわよ、モテそうだしねぇ』

「そんな事ないさ…」

 いや、女難なだけだ…とは言えなかった。





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