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シャイニーストッキング

第8章 絡まるストッキング7      本部長大原浩一

 94 希望の『望(のぞみ)』④

「希望の…望(のぞみ)かぁ…」
 と、私はそんなあの23年前の頃を思い出しながら、ふと、そう呟いた。

『ええー、違うわよぉ、絶望の…よぉ』
 すると、すかさずノンは否定してきたのだが…
「ううん、いや、いいんだ」
 と、そう返す。

『ええ…』
 意味が判らない…みたいな顔をしてくる。

「いいんだよ、こっちの、オレ自身の中の想いだからさ」

『ふうん、よくわからないけど、まあ、いいや…
 こうして再会できたから…』
 ノンはそう、懐かしそうな目をして囁いてきた。
 そして三面鏡を手にして…
『はい、できましたぁ、いかがですかぁ』
 と、明るく言ってくる。

 ああ、この明るさは変わってないなぁ…

 あの頃、この明るさにどれ程助けられたのか…
 そう感極まった想いをしてしまう。

『あっ、そう、これ、お客様カードなんだけど…
 また来てくれるんでしょうねぇ?』
「ああ、もちろんだよ、今度はわざわざ来るよ」
 と、社交辞令も忘れない。

『じゃあ、一応書いてくれる?』
「ああ…」
 私は頷いた。

『あ、そう…
 いつまでこっちに居るの?…』
 そう訊いてくる。

 再びドキンとしてしまう。
 決してノンにとっては深い意味は無いのであろうが、今日、ゆかり、律子を含め、しかも僅かな短時間でそう訊かれたのは三人目なのである。
 ゆかりと、律子の二人とは意味が違うのであろうが、ドキンとしてしまったのだ。

「う、うん、一応、15日の昼間までの予定ではいるんだが…」
 まだ、ハッキリとはわからない…
 と、いう顔をした。

『ふうん、15日の昼間までねぇ…』
 そしてノンはそう呟いたのだ。

 やはり、女難なのか…

 ドキンが、ザワザワと再び騒めき、僅かに心が揺らいできていた…

「お店なんだろう?」
『うん、でも明後日から三連休にするのよ、ほら、元旦那の三回忌だしさ…』

 確か三年前にガンと言っていたな…

「そうか…」
『うん、ほら、わたし一人娘だから、彼は婿養子でさ…
 お墓も一応こっちにあるんだ』
「三回忌かぁ…」
『うん…』

 お互いにお盆は忙しい…

 これが大人になったっていう事なんだろうが…

 つい、昔の、過去を懐古、回顧してしまったから余計にそう感じていた。





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