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シャイニーストッキング

第8章 絡まるストッキング7      本部長大原浩一

 145 偽りの飾り ②

「悪戯って…」

「うんとねぇ、ホント色々…
 例えば、昔はいつも花瓶にお花飾っていたんだけどさ、そのお花を1本抜いていったり、足してみたり…
 ごっそりお水を捨てたり…
 飾ってあった額縁の絵をズラしたり…」
 そして段々と大胆になってきてさ、ピアスや指輪をわざと置いていったり…

「ま、マジか…」
 本当に驚いていた。

「うん、マジ…
 だからさ、なんとなくさ、飾りが要らなくなったの…
 ううん、なんとなく飾りが怖くなってさ、全てが偽りの飾りに見えてきてしまったのよ」
 と、きよっぺは苦笑いを浮かべながら淡々と話してくれていたのだが、その話してきた内容はとても苦笑いさえ浮かべられない様な内容であったのだ。

 それは相当なトラウマ的な要素じゃないか…
 私は心の中でかなり動揺をしてしまう。

 てっきり、離婚、寂しい、イコール心の空虚感からのこのほぼ何も無い部屋…    
 なのだと、思っていたのだ。
 だが、とんでもない、私の想像を絶する内容なのである。

 それを、例え、苦笑いを浮かべられながらも話せる…
 離婚してからのこの3年間で乗り越えられたというのであろうか。

「ご、ごめん…」
 私はあまりにも、そして想像を絶する内容の重い話しに思わず謝ってしまう。

 訊いてしまって…

 尋ねてしまって…

「ごめん…」

「やだわぁ、こっぺったらぁ、何で謝ってくるのよぉ…
 もう大丈夫になったからさぁ…」

 そのきよっぺの
『もう大丈夫になったからさぁ…』
 が、私の心に響いてきたのだ。

「きよっぺ…」
 私は思わず立ち上がり、彼女を引き寄せ、抱き締めた。

「あ、ありがとう」
 彼女はそう呟き、身を預けてくる。

「もう大丈夫だから…」
「うん…」
「だから…」
「うん」

「シャワー浴びてくるねっ」
 と、そう明るく言って浴室へ向かった。

 でも私にはその明るさになんとなく彼女がいじらしく思えてしまい、そして心が震え、かつ、心が痛く感じてしまってきたのである…

 きよっぺの結婚生活…
 これはあの23年前に別れてからは全く私には関係がない。
 
 だが…

 だが、なぜか…

 心が痛い、痛んでくるのである…

 そして…

 これはおこがましい思いであり、妄想の類いになってしまうのであるが…

 



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