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シャイニーストッキング

第8章 絡まるストッキング7      本部長大原浩一

 159 見知らぬ電話番号…

「そんな毎日来なくていいからさぁ」
 と、案の定母親はそう言ってきた。

「いや、明日は法事だから来れないよ…」
「ああそうだった、ま、健次と2人で宜しくやっといてよ」
 母親はあっけらかんと言ってきた。

 全く見た目は元気なのだ…
 
「ああ、まあ、ゆっくり休んでいてよ」
 そんな感じで軽く雑談を交わし、病院を午後3時過ぎに出た。
 とりあえずタクシーに乗り、携帯電話を開く。

 あっ…

 2件の着信があった。
 一つはきよっぺからであり、そしてもう一つの着信は見知らぬ電話番号であったのだ。

 だが私の心はディスプレイの着信表示に浮かんだ
『本田きよみ』つまりきよっぺの文字に再び心がザワザワと騒めきを感じてきたのである。

 きよっぺ…

 一昨夜に運命的といえる再会を果たし、そして『焼けぼっくい火が点いた』如くに、連夜の逢瀬を交わした。

 それは、27年前に遡る、青春の忘れ物を取り戻したともいえるのではあるのだが…
 余りにも重い彼女の過去に、そしてそれをすんなり受け入れてしまった自分の気持ちに、少し戸惑ってもいたのである。
 
 そして心の奥底には、どうせ結局は、こうして帰省した時だけの逢瀬になるに違いない…
 そんな想いが燻っているのであり、そして、きっと聡明な彼女もそう思っている、いや、いるに違いないのだ、と、思っている自分がいるのだ。

 だが、果たしてそうなのであろうか?…
 そう思うもう一人の自分もいるのであった。

 あの、特に昨夜の彼女を、目を見たら、果たしてそんな軽々しく彼女を扱ってもいいのだろうか?…

 そして、昨夜、再び燃え上がった彼女の心の火が、そう簡単に消える、消せる事が出来るのであろうか?…
 と、ザワザワと騒めき、戸惑い、不惑な想いが湧いてきていたのである。

 そしてこのタイミングでの見知らぬ電話番号である。

 誰なのか?…

 更に心がザワザワと騒めいてくるのだ。

 多分もしかするとこの着信番号は…

 やはり女難なのだろうか?…

 この帰省の、この連日連夜のこの意味は果たして何なのだろうか?…

 あっ、だが…

 だが彼女とは電話番号は交換していない事実に気づいたのである。

 だとすると?…

 仕事の電話なのだろうか?…

 心の騒めきはますます高鳴ってきていた。



 

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