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解けて解けば

第1章 いち

朝昼晩、一日三回は連絡取らないと怒るし、男の人と二人きりになるのは絶対だめ、男の人と仕事以外の会話をするのもだめ。

少しでも破ると私はスマホを取り上げられてしまう。私の愛が本物だと確認するまで返してくれない。

「柚木君こそ、可愛い彼女いるんでしょ?」
「いません。」
「えー勿体ない、私がフリーなら立候補しちゃうよ!なーんて。」
「…そういう冗談はやめてください。」
「…お、おう。」

いや、真顔でそんなふうに言われると、なかなかショックなもので。

「ご、めーん。ごめんね、なんかハハハ。相変わらずデリカシーが無かったわ~。昔もよく柚木君に怒られたっけね。」
「…変わってませんね、ほんと。見た目はますます綺麗になって。」
「なによぉ、なんも出ないぞ!」

思わずバシン!と背中を叩いてしまった。
イケメンに綺麗だよって言われると、なかなかくるものがあるわね。顔が火照っちゃう。

「俺ずっと八伏先輩の事が好きだったんです。だからそういう冗談はキツいです。」
「…。」

え?

「すみません、ちょっと取らせてもらっていいですか?」
「え?わ!すみません!どうぞどうぞ!…わ」
「あぶない!」

避けようとしたらうっかり滑ってよろけてしまった。
柚木君の腕がそんな私の背中を逞しくガッシリと支えた。

「何やってるんですか、危ないでしょ?」
「ご、ごめん。」

言葉は反射で出るばかりのもの。
思考回路は一切働いていない。

「…すみません、変なこと言っちゃって。」
「うん。」
「忘れてください。」
「それは無理。」
「え」
「え?」

いや待て、そこは『うん』と返すべきところ!
忘れるべき案件だぞこれは!

「期待しちゃうんですけど。」
「え」
「…急いでます?」
「いや」

柚木君の手が私の肩を掴む。
そのまま雑誌コーナーの奥、男女共用トイレへ。

え?

「ゆ…ゆぎく…」

壁ドン、からの顎クイ、からの

「んんん…っ、ま、まってっ…ん」

押し付けられた唇は熱くて…。

「八伏先輩…はぁ、美裕さん…」
「ゆ、ぎく…」

彼から伝わる熱さに、私の思考は完全に溶かされてしまった。



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