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解けて解けば

第1章 いち

柚木君とはそのボランティア部で一緒だった。

「おかえり、暑くて大変だったな。」

事務所に戻るなり声をかけて来たのは私の彼氏でもある和泉主任。

「最高気温を更新したそうですよ~。ってか三号車、エアコン壊れてるんですけど。エンジン音も限界が近いって訴えてるし、替え時じゃないんですか?」
「来年替える予定はしてるんだ。それまでなんとか」
「なんとかもたせろ、と。」
「他の車もあるだろ?上手くまわしてくれ。」
「はい。」

使うのは近場に行く時に限定した方が良さそうね。

「和紗」

ふいに、名前で呼ばれドキリとした。

「なに?ここ会社なんですけ…え、ちょ!?」

手首を捕まれ、強引にそのまま、人気のない倉庫へ。

「きゅ、急に何?」
「この匂い、どうした?」

匂い?…あ

思い出したのは柚木くんに迫られたときふわりと薫ってきた香水の匂い。

「こ、コンビニで制汗剤をね!お試ししたのよ。あんまり汗かいたから。」
「ふーん。柚の香り、か。あまり見た事ないな。」
「新商品みたいよ…っ」

大丈夫、交換した連絡先は直ぐに消した。

「携帯鳴ったぞ。」
「え、どうせDM!」

出せ、と言わんばかりに手を差し出す。
私は内心ドキドキしながらスマホを渡した。

「ふん…ここのDMしつこいんだよな。迷惑設定した方がいい。」
「あ、うん。だね。」

よくくるDMの差出人名に胸を撫で下ろす。

「明日休みだろ?今夜来いよ。」
「わ、わかった。…ん」

強めに、首の横を吸われる。

「随分濃い匂いだな。」
「そ、そうだね。あまり濃すぎて買うのやめた。」
「食欲はそそるけどな。…髪に隠れる、大丈夫だろ。」
「え…あ。うん。」

トイレの鏡で確認すると、そこにはしっかり彼のマーキングの跡。
いつもは気にならないのにヒリヒリする。

「はぁ…。」

どんだけ好きなのよ、私の事。
愛しいヤツめ、なんて思いながらニヤリとする。

目を閉じるとふっと横切る柚木君の顔はテレビで見た芸能人の顔だと自分に言い聞かせる。
再会は嬉しかったけど…あれは全部夢の中の出来事、そう思わなくちゃ。

ふいに、着信を知らせる振動。
恐る恐る画面を見る。

『今日は先輩に会えて凄く嬉しかったです。食事をご一緒したいのですが、ご都合の良い日を教えてください。』

都合のいい日、なんてない。










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