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神の口笛

第9章 9



「私は35の引退まで軍にいます。結婚する気はない」


葉の季節も終わる頃、レイモンドとエマは厩舎の前にいた。


「…そうか。キミなら簡単に承諾することはないと思っていたよ。」

困ったように笑いながら、レイモンドは鼻先を掻いた。



「あなたはとても良い人。だけど…。」

「いいんだ。僕は諦めが悪いから、よかったら今後も同じ兵士として仲良くしてほしい。そばにいたいんだ。」


「ん…。」

曖昧に頷くエマを、レイモンドはジッと見つめていた。



10代で子を持つ女が多いこのご時世で、35まで待つのはさすがに考えづらい。

いま目の前にある、麗しき姿のエマが欲しいのだ。どうにかならないものか…。

頭をひねって考えるが、どうしても脳裏にちらつくのはやはりあの兄…グレイの姿だった。







それからすぐテオヌになり、エマは弥生の小屋に入った。


「エマ~♪元気にしてた?」

「ソフィア!」

軽いハグを交わし、今回もまた問診を受ける。



「え~っと次が、性交渉。どう?」

「した。」

「はい、YESに○っと……。って、えぇーっ?!??」


どうってことない様子でエマが答えるので、ソフィアはYESに〇をつけてからやっと悲鳴を上げた。


目も口も見開いて固まるソフィアに、エマは思わず笑ってしまった。


「し…したのね?」

「うん」


「それは、いつ頃かしら?」

「えぇっと…先週。」


「相手は……グレイ?」

「うん」


ソフィアはおぼつかない手で万年筆を持ち、グレイの名を問診票に書いた。


「相手の名を書くの…?」

「そうよ、できるだけね。もし性病や妊娠があった場合に、分かっていた方が良いから」

「そっか。」



それにしても…―――

と、ソフィアは何度も驚きを口にした。泣きそうな、でも笑いそうな、おかしな表情だった。


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