甘い蜜は今日もどこかで
第4章 【届かない想い】
「椿………10秒ルールまだだったよな?」
今は…………ズルい。
そう思いながらもゆっくり視線を合わせる。
10秒間見つめて……て、いつも5秒あたりで唇重ねてる。
ダメ………仕事中よ。
周りの人は一生懸命仕事しているのに私たちは………
グイと押して距離を取る。
おしまい、の意味。
まだ足りないって顔も通らないから。
「はぁー」と溜め息ついて肩に頭を乗せてくる。
それ、体勢キツくないですか。
「椿が足らない……俺、どうしたら良い?」
「どうしようもありません、我慢してください」
冷たくあしらったつもりでもこの優しい顔を見れば戦意喪失。
目を逸らしたら反転させられバックハグに。
「あと少しだけだから」
「………はい」
そう言いながらアップにしている首筋に唇を当ててきた。
ビクっと肩を上げた私を更に強く抱き寄せる。
匂い嗅がないで。
近い……副社長の吐息が熱い。
「副社長………もうそろそろ……ヤンっ…!」
突然変な声を出してしまったのは、副社長の吐息が耳に掛かったから。
逃げようとしてもすっぽり入った腕の中ではまだ離して貰えない。
これは私の音……?
それとも副社長の心音……?
混ざり合ってバクバクしてる。
ほんの数分が居ても立ってもいられなくなる。
「ハァー、持って帰りたい、椿のこと」
耳元で喋らないで、鳥肌が立つ。
もうそろそろ出ていかないと変に思われるかも。
そんなことばかり考えてしまう私とは正反対で火照りをダイレクトに伝えてくる人。
「困りますね、そんな好き好きオーラ出されると……この先保つか不安です」
そう言うとパッと離れて再び向かい合うのだ。
「ごめん」って子犬のような目で訴えかけてくる。
「好きが溢れる、どうしたら良い」なんて聞かないでください。
私にだってわからないことくらいあります。
眉をハの字にして謝られても、今じゃ胸の奥が熱くなって、きっと私、この感情に慣れていない。
初めての感覚に戸惑っているのは私の方だ。
「椿……その顔可愛い、誰にも見せたくないな、俺だけにして?」