テキストサイズ

甘い蜜は今日もどこかで

第5章 【もし間に合うのなら】






「いつもお世話になっています」ってちゃんと挨拶してるジロウが可愛くてハグしたい気持ちを必死に抑えてた。
何か彼氏を同僚に紹介してる気分。
ニヤニヤして見られるから「違いますよ」って言わなきゃならないのが不服。
後部座席に乗り込もうとしたら「助手席じゃないの?」ってイジってくる。




「そうやって勘違いされては困るので社内規定で決まってるんです」




特にクライアント先ではね。
最後まで冷やかされて先輩たちともそこで別れた。
走り出してから
「あれ、もしかして僕らの関係怪しまれてます?」ってジロウがバックミラー越しに目を合わせてきた。




「気をつけますね」とか言わなくて良いよ。
シュン…としちゃうの、見逃さないのがジロウだけど。
「椿さん?」って優しく呼ぶの。
良いって思ってるよ、ジロウとだったら勘違いされても。
なんて、口には出して言えない。




「もう慣れたよ、どうやったって噂立つんだからさ」と不貞腐れてしまう私は可愛くない。




「でもすみません、僕、やっぱり気になるんで椿さんのことは見ちゃってるからだと思います……気をつけます」




だから良いってば。
ジロウはそれで良いの。
彼氏?って聞かれて意識してなよ。
あと何回このくだり繰り返したら私のモノになる…?
ウソウソ、手放したくないからもう少しこのフワフワした関係で良いよ。
それ以上望まないからこうやって傍に居て。




ご飯作るって言われてまた部屋に入れてる。
そういうの全部、仕事だからやってるんだよねぇ?
聞いたとしても「そうですよ」ってあっけらかんと言うんだろうな。
「もう来なくて良いよ」とか言ったら本当に来なくなっちゃいそう。




何処まで踏み込んで良い…?
今まで攻めた態度取ってきてたけど、距離感おかしかったよね。
ジロウだから…と甘え過ぎていた。
それはもうダメ…?




「もう明日から来ません、担当も変わります」っていつか言われるんじゃないか、自制しなきゃって思う反面、近い将来担当を外れるならもう抑え込まなくても良いんじゃないかって悪い顔した自分も居る。




キッチンに一緒に立つとニコッと優しい顔見せてくれてキュンとしてるの知らないでしょ。
そしたらジロウ自ら背中向いてて脇を広げて見せたの。




「ん?」










ストーリーメニュー

TOPTOPへ