甘い蜜は今日もどこかで
第5章 【もし間に合うのなら】
「あれ?いや、いつも椿さん、後ろから抱き着いてくるから今日もそうするのかなって……違いました?え、恥ずかしいっす、すみません」
もうさ、これ以上好きにさせないでよ。
真っ赤になってるジロウに
「違ってないよ」と抱き着いた。
「邪魔じゃない?」
「はい、もう出来上がるとこなんで」
「ジロウ……」
「はい」
好き……て言ったら何て答える?
困った顔するよね。
「何でもない、呼んだだけ」ってチキンな私を許してね。
「出来ました」って見せる笑顔ずっと見ていたい。
ほんの数分だったけど、ハグはしても良いらしい。
うーん、やっぱり私、ジロウに転がされてる。
それもそれで良いかって思うんだ、今は。
ジロウはどう思ってる……?
お風呂から上がっても髪の毛乾かしてくれるし、マッサージだってしてくれる。
明日も仕事なのにそこまで尽くす?
もう恋人同士じゃんって思うのは間違ってる……?
尽くすだけ尽くして、そそくさと帰り支度するのズルいよね。
「じゃ、椿さん帰りますね、明日も今日と同じ時間に迎えに来ます、おやすみなさい」
ペコリと頭を下げて、おあずけ状態を食らうのも慣れてきた今日この頃。
玄関先まで見送ってバイバイする。
もう「待って」って引き止めてキスしなくなったのわかってる?
ジロウが欲しがるまでしないでおこうって思ってるんだけど、勝算はない。
このまま本当にしなくなっちゃう可能性は無きにしもあらずな訳で。
本当、先の見えない綱渡り状態よ。
いつか、よくも弄んだなって仕返し出来る日は来るのかな。
出ていこうとするジロウは一旦こっちに振り返って再び目が合った。
「ん?」
「いえ、温かくして寝てくださいね」
「うん、ジロウもね、おやすみ」
「はい……」
ドアノブを握っているのに出て行かないから。
私、いつもこれでキュンとして負けてばかり居たのよね。
学習しなきゃって自制する。
「なに?泊まりたくなった?」
そう言えば拒否るのわかってるから。
「いえ、か、帰ります!」
「はーい、バイバイ」
ドアを閉めたらすぐに鍵を掛ける。
その場をすぐに離れて何でもないフリ。
鼻歌でも歌ってやろうか。
もう簡単にキスなんてしない。
頑張って自制する。