甘い蜜は今日もどこかで
第8章 【ずっといつまでも】
「大丈夫?」と関口さんに聞かれ笑顔で誤魔化す。
外に出るとにわか雨が降り出していた。
雨の予報はなかったのに。
慌てて傘を買ってきた関口さんと相合い傘で移動する途中、離れた場所で救急車のサイレン音が鳴り響いていた。
「事故かな?それよりすみません、親、早く着いたみたいなんでもう向かっても良いですか?」って言われて気にも止めず「はい」と快く返事をした。
人集りからどんどん離れて地下鉄へ。
GPSは途絶えないはずだから大丈夫。
相合い傘してたの、ジロウ怒るかな。
仕事なんだよってもう言いたくない。
私がそれされたらどんな気持ちになるか痛いくらいわかってるから。
どうやったら機嫌直してもらえるかな。
「ここです」と連れてこられたのは老舗の和食料理店。
予約していた座敷に向かう。
以前遭遇した時はお母様だけだったのでお父様とお会いするのは初めてだ。
通された個室にて挨拶を済ませる。
これ、どう見ても結婚の挨拶みたいじゃない?
その辺、本当に大丈夫?と聞きたいくらい。
「お久しぶりです」とお母様の方に再度声を掛けたら覚えてくれていたようで安堵の笑みを溢された。
会食は問題なく始まって、本物の形ではないものの、なるべく上辺だけの関係性で終わらせたくはないのでまた引き出し増やしそう。
もう覚えてなくて良いのに。
最後のレンカノなのに。
ご両親との会話、表情全てをスクショしてしまう。
「また次に会った時に」なんてもうないのに。
次に会えるのは本物の彼女でありますようにと微笑むしか出来ないのだ。
精一杯務めさせて頂く。
ごめんなさい、と胸に。
いつも通りの仕事ぶりで、なんの滞りもなく違和感もなく楽しい会食は終了予定の時刻に迫ろうとしていた。
「大事にしなさいよ、こんな綺麗であんたを理解してくれる人そうそう居ないんだからね」と諭されている。
別れ際まで手を握られ「息子を宜しくお願いします」とお願いされてしまった。
「俺は彼女送ってくるから」とご両親を駅まで見送り、その後2人でロータリーまで歩いていく。
お礼を言われて謙遜するけど、これが本当の最後だとわかっているので少しぎこちない。
「最後にやっぱりオプションつけても良いですか?」