甘い蜜は今日もどこかで
第1章 【本当は嫌なのに】
店内に戻ると全ての視線が集まっている気がする。
私を見てホッとしているクルーも再教育が必要ね。
店内オーダー、モバイル、配達全てを一人で注文ごとに揃えていく。
イヤホンマイクで調理場とも連携し、ベテランクルーはドライブスルー専門で配置した。
ある人は私のやり方についていけないと言う。
仕事は要領さえ掴めたら型にはめていくだけだと思ってる。
その上で臨機応変に対応できるスキルも身につけていくべきだ。
マニュアルなんてあってないようなものなのだ。
ベースは同じであっても店舗によってその地域の特性もあるしクルーのレベルも様々。
「藤堂マネージャー、さっきのお客さんかなりネチネチ言われてませんでしたか?」と裏で言われて「へ?」となる私は完全に聞き流しているのだろう。
引きずることもなければショックも受けない、なんせ5つ先を常に頭の端で考えてますから。
「大丈夫、ああいったタイプはベットの上では意外とドMなんだよ?」
「わ、藤堂マネージャーが言うとめちゃくちゃ説得力ありますよ」
若いクルーは時々助っ人で入る私によく懐いてくる。
基本的なことは教えるけど細かいことは目で見て盗んでねってクルーに最初に伝える言葉だ。
そうね、私はいつも第一印象からサディストだと思われることがほとんど。
アネゴ肌だから仕方ないとも思ってる。
だからミスばかり繰り返すクルーに注意する時も結構ビビらせちゃうみたい。
「す、す、すみません…!」
オドオドした男性クルーがあまりにも謝り倒すから指一本で額をついて顔を上げさせた。
「お客様の前じゃここまで顔を上げて目を見て対応するの、笑ってみて」と無茶ぶりするも一生懸命してくれるところとかちょっとジロウみたいって思っちゃう。
「大丈夫、その笑顔で接客してね、落ち着いて、私がフォローするから」なんて格好つけてみるがコレが意外と効果あるんだよ。
私は見捨てない、中心になって動くけど独りよがりな空気にはしない。
スペシャリストがせっかく居るんだから何か1つでも盗ませたいじゃない。
無事に乗り切り終了時刻を迎える。
「つーかーれーたー!!」
「お疲れさまです、椿さん」