甘い蜜は今日もどこかで
第3章 【どんなに焦がれても】
吉原さんが教えちゃったから仕事内容が漏れてる。
譫言のように「レンタル彼女…レンタル妻」と言ってくるし更に扱いづらくなっちゃった。
それ以降は何があっても漏らさないでください!と念押ししておいたけど。
副社長を煽って何企んでるんだろう。
暫く吉原さんの噂は耐えなくて聞かれるたびに私が訂正するハメに。
クラブのママだなんて、似合いそうね。
同性から見てもドキッとするくらい妖艶だもの。
あれで37歳には見えないし結婚はしていないけど恋人はたくさん居るとか居ないとか。
吉原さんを指名してくるクライアントも未だに居る。
「社長なのでごめんなさい」って茶目っ気にお断りしているらしい。
とにかく美魔女なのだ。
そして、こちらも膨れっ面の人が一人。
「何で延長したんすか……しかもそれを吉原さんから聞いたし」
「ごめん、ジロウ、言うの忘れてた」
というのは嘘で、言いにくかった。
あまり良い気はしないだろうなって。
人づてに聞く方が良い気しないね、ごめんなさい。
ゆっくりタオルドライしてくれる洗い髪。
ジロウの作ったご飯を食べてお風呂から上がったところ。
「何も相談すらないんだもんな〜」
「ごめん………なさい」
ドライヤーを当ててくれるけど何となく怒ってる素振りのジロウに何も言えなくなる。
小さくなっている私に前髪を当てながら頬を軽く抓られた。
ヤバい、すっぴんだってば。
「痛い……」
「本当、椿さんにはやられっ放しです」
「ねぇ、アイス食べる?」って機嫌直してもらおうと思って言ったのにタオルを頭から被されて目を隠した状態で柔らかい唇が一瞬だけ触れた気がした。
えっ……!?ジロウから!?
「え、今の何?」とタオルを取ったら何食わぬ顔で「何がですか?」って何かありました?みたいな空気。
耳だけ真っ赤なのは誤魔化せてないぞ。
可愛いね、自分からして照れてる。
頑張ってなかったことにしようとしてる。
「ねぇ、もう一回」
「え?何がですか?」
「今のもう一回してよ」
服を引っ張っても素知らぬ顔でドライヤー直してるし、後ろからハグしたら「コラ」って叱られる。
ありがとう、元気出た。