甘い蜜は今日もどこかで
第3章 【どんなに焦がれても】
携帯を出したら「まだダメ」とスーツの胸ポケットに直されてしまった。
えっ!私の携帯っ!
いやいや、返してください。
あ、でも、手を入れるのは違うような。
うわ、どうしよう。
「ほら、頭撫でてよ」
「え…………はい」
言われた通りに頭を撫でると満面の笑みで「やった〜」と両手を上げて喜び出す。
ちょっと恥ずかしいのでやめてもらって良いですか。
通行人に見られてますから。
「つーばきちゃん」
「え?」
「エヘヘ、つーばきちゃんって可愛い名前」
相当酔ってるな。
逆にこっちが酔い覚めたわ。
シャキッとしてきた。
これは自宅までお送りしなければ。
ジロウ、助けて。
「ずっと好きな女がこーんな近くに居るのに手出せないんだよ?拷問じゃない?ダメなの?俺じゃダメ?俺は!キミに触れちゃダメなの?」
「副社長、落ち着いてください、あの、タクシー呼びますので携帯返してもらえますか?」
「ダメダメ、ちゃんと答えるまで返さない」
フラつきながらも何とか立ってる状況。
手を握られて甲にキスされて熱帯びた目で私を捕らえるの。
こうなったら雄になるから困ったものだ。
何とかして打開策を練らなければ。
「好きだ………俺、藤堂さんが好きなの、お願いだから俺を選んでよ、お願い……お願いします」
「ちょっ、副社長、頭上げてください」
あーん、面倒なことになってきたよー!
ジロウ、助けて…!!
そう願った瞬間に格好良く現れるんだよね、ヒーローは。
「椿さん、大丈夫ですか?」って愛しい声。
「ジロウ〜」と泣きつきたい気持ちを抑えて状況を説明。
一緒に抱えてくれてジロウの車で送ることになった。
後部座席で副社長を支えながら同乗する。
スヤスヤと眠るのは良いけど膝枕です。
ギュッと手も握られて離れてくれなくて。
バックミラー越しにジロウと目が合うけど、あまり良い気はしてないよね。
でも、一応クライアント様だし……ね。
終始無言で自宅まで走った。
うっかり会話して副社長に聞かれてもって思ったし、想像以上に空気が重いし。
違う意味でまた泣きそうだよ、今は。
携帯は戻ったけど、初めて入る副社長のご自宅。
キーをお借りしてジロウと抱えながら何とか寝室まで運んだ。