甘い蜜は今日もどこかで
第3章 【どんなに焦がれても】
「ハァハァ……ありがとうね、ジロウ」
「じゃ、早く帰りましょう」
「待って」
ベットに乗り上げネクタイを外しボタンも3つほど緩めた。
ベルトに手を掛けると「ちょっと椿さん!?」って止めに入るの。
クスッと笑っちゃう。
「緩めてあげないと、締め付けは良くないから」
後は寒くないように布団を被せて枕元に冷蔵庫にあったミネラルウォーターを置いておく。
そして、その近くに
“ご自宅までお送りしました、キーはスペアをお借りして施錠しておきます、二日酔いでしたらお薬飲んでくださいね 藤堂”とメモを残した。
静かに自宅を出てジロウの車で帰る。
まだ無言のままなジロウに何て声をかければ良いのかわからないでいた。
信号待ちのたびに居心地が悪くなる。
何も話さないのはおかしいかな、と勇気を振り絞った。
「ジロウ、怒ってるよね、ごめんなさい」
「………いえ、椿さんは当然のことをしたまでです、怒るだなんて僕、何様なんすか」
無理やり笑う横顔に胸が締め付けられる。
「だって副社長のこと、あまり良く思ってないでしょ?でも放っておけなかったから……ジロウにも迷惑かけちゃったけど助かった、ありがとうね」
「その、迷惑かけちゃったって何すか?迷惑だなんてこれっぽっちも思っちゃいないですから」
「…………じゃ、何で怒ってるの?」
時として遠回しに聞くよりダイレクトに聞いた方が正解だったりする。
けど天の邪鬼なジロウは遠回しに言ってくるんだろうな。
「…………怒ってないです」
「嘘だ、怒ってるよ、めっちゃ怒ってる」
お酒が完全になくなったわけではないので。
ほろ酔いついでに我儘ぶつけてやろうってたまに思うんだよ。
「すみません、こういう顔なんで」
「すぐそうやって誤魔化す、自分の気持ちに蓋をする、距離取る……何か寂しいな、そういうの」
窓の外を眺めながらそう言ったら急に路肩に車を停めた。
「こうでもしなきゃ暴走するんすよ!椿さんはいつも、あの人には甘い、クライアントとの距離感が度を越えてます、振り回されてる椿さん見てて本当は抑えてんすよ、こんな僕を見てガキんちょだって思うんでしょうけど」